地域社会論ゼミナールの先輩~韓国で地域政策を研究している根本真嗣さん~

ソノリテの前会長で、江崎のNPOの師である帯刀治先生の地域社会論ゼミナールに、押しかけゼミ生をしていたころ。大学院生として在籍していたのが、根本真嗣(まさつぐ)さんです。25年前に韓国の忠北大学へ留学をなさって、以来、国際開発、地域政策の研究員としてご活躍されています。
やさしいほうの世界をつくる人々、今回は、韓国で帯刀先生の意志を引き継いで地域社会研究に力を注いでいらっしゃる、根本真嗣さんをご紹介します。
帯刀ゼミでの出会い
帯刀ゼミでは主に①マックス・ウェーバー、エミール・デュルケムなどの社会学の古典輪読、②ゼミ生の関心に沿った現代の専門書輪読、③夏休み期間の現地調査、それから④希望者がいる場合、英語原文の輪読(別の日にちと時間帯で)があったそうです。私が目にしたのは①や②などで、社会学の基礎を学んでいない私にとっては、いずれも新鮮でわくわくするゼミだったことを思い出します。そして、いち市民として、それはどういうことを表しているのですか?どういう地域社会が良いということですか?と質問ばかりしていたように思います。
私なりに、帯刀先生が大事にしていた社会学的哲学は、「分業」「有機的連帯」「労働者(市民)のコミュニティ」でありその研究に力を注がれていたように感じています。その先生の意志を実践者として引き継いでいるのが、茨城NPOセンター・コモンズの横田さん、そして研究者として引き継いでいるのが根本真嗣さんではないか、と思います。
はじめて根本さんとお会いしたのは、放送大学の教育社会学を専攻し卒業論文を書くために勉強をしていたころ。放送大学のゼミでは、地域社会とは地縁組織の単位であり、町内会が衰退しているのでコミュニティの力は限界がある、というような話題ばかり。帯刀ゼミで毎回話題になるNPOの未来とは真逆の論調です。帯刀ゼミにお邪魔しては、私が先生やゼミのみなさんに疑問を投げかけると、そんなことは無い、地域社会の単位は、家族単位から地球規模でコミュニティを考えるべきだ、とか、地縁組織だけでなく目的を同じくして人々が結びつくこと、立場の弱いシングルマザーや学校に行けずに困っている子どもたちなど、一人ひとりに寄り添う形でNPO活動が各地で展開しようとしていることなど、可能性を感じる議論がなされていました。根本さんもそのおひとりで、修士課程に在籍中だったため、茨城NPOセンター・コモンズの活動にも中心的にかかわっていらっしゃいました。私の疑問に文献を示していただいたり、感情的ではなく理論的に反論できる根拠を教えていただいたり、本当に助けていただいたことを覚えています。
修士課程を修了して韓国へ留学されたあとも、まだ出始めだったインターネットを通して韓国にいる根本さんにメールで質問を送ると、日本にいてもなかなか会えなかったり連絡が取りづらい方がいる一方で、誰よりも早くお返事を送ってくださり、私の卒論研究を助けてくださいました。
日韓で 市民社会の形成に貢献
茨城大学大学院在籍中に韓国の忠北大学へ留学。帰国して大学院を修了して再び忠北大学へ。2004年から2009年まで忠北大学大学院行政学科博士課程を修め、2009年から2018年まで同大学社会科学研究所専任研究員、2019年から現在に至るまで同大学国際開発研究所研究教授として研究に従事されています。帯刀先生と忠北大学名誉教授の姜瑩基(カン・ヒョンギ)先生の友情がきっかけだったとのことですが、決して甘くはない韓国社会で日本と韓国の交流や、市民社会の形成に貢献されている姿は、ソノリテにとっても大変心強い存在です。
韓国から、インターンシップとして大学院生(社会人大学院生を含む)の方たちをお迎えし、ソノリテ東京本社と、神山サテライトオフィスへお越しいただき、徳島の阿波踊りを一緒に楽しんでいただいたこともあります。また、今年は帯刀先生の出身地である島根県出雲市へゼミの卒業生の方たちと訪問しようという企画をしています。
2020年1月、帯刀先生ご急逝の知らせを受けたとき、ちょうど愛知のご実家に帰省されていた根本さんと一緒に、水戸の葬儀場へ駆けつけました。あまりに急なお別れに実感が無かったものの、その後、ゼミの卒業生のみなさんとともに、「帯刀治先生の足跡をたどる有志の会」を立ち上げ、先生の研究の記録や、ゼミ卒業生からの寄稿文などをまとめる作業を中心となって進めてくださいました。根本さんは、帯刀先生が地域社会論研究を通じて、机上の空論ではなく市民の暮らしに役に立つ研究でなければならない、という遺志を受け継いで韓国で頑張っていらっしゃるのだ、と改めて感じる機会になりました。
韓国にいても、日本の地域社会、市民社会の発展に深く関心を寄せていただき、ソノリテの事業がその発展に貢献できるよう、株主としてもいつも見守ってくださり、的確なアドバイスをいただける存在。これからも、やさしいほうの世界をつくるチャレンジをサポートいただけることと信じています。

中央で黒いコートを着ているのが忠北大学行政学科の姜瑩基(カンヒョンギ)教授
これが根本さんにとって初めての韓国で、このとき忠北大学を訪れた経験が、その後の留学を決心するきっかけとなったそう



