ファシリテーションが会議・組織・社会を変える!第32回・「リーダーシップ」への応用(その2)
▼あらゆる人がリーダーシップを発揮しうる!
このように見てくると、リーダーシップという現象を突き詰めて考えると、それは「働きかけによる影響力」であるということができないでしょうか?
たとえば、Aさんが「あの山頂に行くんだ。一緒に、山頂からの景色を見てみない?」と口にした時に、BさんやCさんが「自分も行ってみたい!」と思い、Aさんと共に歩き出せば、その時、Aさんは他のメンバーに影響を与えた、つまりリーダーシップを発揮したといえます(絵を描いてめざす方向を示す働きかけ)。そして、その道のりの途中で、皆が疲れ果てて座り込んでいるときに、Bさんが「もう少しだ、がんばろう」と立ち上がり、それに励まされたAさんやCさんが再び歩き始めたら、その時、Bさんはリーダーシップを発揮しているのです(その絵をともに実現していく働きかけ)。
ここからは、2つのことが分かります。
1つめは、「リーダーシップと地位・役職とは無関係である」ということです。仮に、地位・役職が何らかの影響力(ポジション・パワー)を持つとしても、それは、その人の働きかけによる影響力ではありません。つまり、その人がどのような立場にあろうと、そこで発揮した「働きかけによる影響力」こそがリーダーシップであり、いわば「すべての雑音を脱ぎ捨てて、なお残る影響力」のみをもってリーダーシップとする、ということです。
そして2つめは、やや過激な考え方となりますが、「リーダー」と「リーダーシップ」とを切り離して考えることも可能となるということです。先の例では、最初に「山頂をめざそう」といい、メンバーに影響を与えたのはAさんでした。しかし、その後「がんばろう」と言いながら率先して歩き出すことで、メンバーに影響を与えたのはBさんです。そして二人とも、「自分がリーダーである」という意識は、おそらく持っていなかったでしょう。
つまり、民主的な組織であれば、リーダーという立場でなくても、あらゆる人が組織の中で何らかの影響力(リーダーシップ)を発揮することが可能であるということです。逆に言えば、「すべての人が互いにリーダーシップを発揮しあう組織こそ、(民主的であるという意味で)健全な組織である」ということなのではないでしょうか。
▼相互作用のプロセスの中から成果が生まれる!
少し横道にそれますが、リーダーシップの2つの働きかけ――「絵を描いてめざす方向を示す」ための働きかけと、「その絵をともに実現していく」ための働きかけ――を、「場」という語を用いて説明しているのが、経営学者の伊丹敬之さんです。
伊丹さんは、「場」を「人々がそこに参加し、意識・無意識のうちに相互に観察し、コミュニケーションを行い、相互に理解し、相互に働きかけあい、相互に心理的刺激をする、その状況の枠組みのことである」と定義した上で、リーダーは「場をそもそも生成させる」ことと、「生成した場を生き生きと動かしていくための場のかじ取り」の2つを行う必要があると説いています(『場の論理とマネジメント』)。
そして、そのような「場」が機能すると、「人々の間のヨコの情報的相互作用と心理的相互作用が自然にかつ密度濃く起きる結果、自己組織的に共通理解や情報蓄積、そして心理的エネルギーが生まれてくる」としています。このような状態こそ、「協働による創発」の前提であるといえるでしょう。
「協働」に対応する概念は「分担(分業)」です。そして、「分担」においては中央集権的な司令塔が必要となりますが、「協働」においては、相互作用のプロセスの中から自律分散的に成果が生まれることになります。
この違いを、伊丹さんは「クラシックのオーケストラと、ジャズのセッションとの違い」、「アメリカンフットボールと、サッカーの違い」として説明しています。
オーケストラの場合、通常は指揮者が司令塔となりますが、ジャズのセッションでは、他のメンバーの演奏に触発されながらアドリブが生まれます。またアメリカンフットボールでは分業が徹底され、綿密に組み立てられたプランが重要な意味を持ちますが、サッカーの場合は、その場その場での流れや各自の判断がより重要となります。そして、分業型(オーケストラ型、アメリカンフットボール型)の組織においては「システム」が重視され、協働型(セッション型、サッカー型)の組織においては「プロセス」が重視されると整理しています。(つづく)
徳田 太郎(とくだ・たろう) 株式会社ソノリテ パートナー・コンサルタント
1972年、茨城県生まれ。修士(公共政策学)。
2003年にファシリテーターとして独立、地域づくりや市民活動、医療や福祉などの領域を中心に活動を続ける。
NPO法人日本ファシリテーション協会では事務局長、会長、災害復興支援室長を経て現在はフェロー。その他、茨城NPOセンター・コモンズ理事、ウニベルシタスつくば代表幹事などを歴任。
現在、法政大学大学院・法政大学兼任講師、東邦大学・文京学院大学非常勤講師、Be-Nature Schoolファシリテーション講座講師などを務める。
主な著書に『ソーシャル・ファシリテーション:「ともに社会をつくる関係」を育む技法』(鈴木まり子との共著、北樹出版、2021年)。
*本ブログは、『ファシリテーションが会議・組織・社会を変える』(茨城NPOセンター・コモンズ、2013年)に加筆修正を行ったものです。