NPOの予算の作り方

NPO法人などの総会で承認を得る議案のひとつに、次年度の「予算」があります。また、NPO法人を設立する際にも、2年分の予算書を作成する必要があります。
ところが、NPO活動を始めたり、中心になって取り組んでいる方の多くが、「予算」と聞いたとたんに躊躇してしまうようです。
では、予算はどのように作ればいいのでしょうか?
今回は、「NPOの予算」について一緒に考えてみましょう。
設立時の予算:最初につまずくポイント
NPO法人を設立する際には、趣旨書・定款・事業計画などが必要になります。ヒアリングを重ねれば、これらは多くの団体が自力で作成できます。しかし、それを「実行するための予算」となると、一気に難しく感じてしまう方が多いようです。
先日、設立のご相談をいただいたある団体の理事長さんとお話ししたときのことです。
A事業にかかる費用について尋ねると、
「いや〜、かからないですね」とのご返答。
???
「お金は出していない」=「費用がない」ではない
この団体は、中高生向けに特定のゲームを、プロの方たちがボランティアで教えたり、競技会を開催したりしている任意団体でした。
たしかに、団体の口座から支出しているわけではないかもしれません。でも、よく聞いてみると、実際には誰かが負担しているということはよくあります。
中高校生向けに教室を開いた場合、参加費をとっているか聞いてみると
「いやいや本人たちからは取りません。」
では、場所代は?講師の方の交通費は?資料の印刷代は?…と今度は詳しく尋ねてみると、
「ああ、それはA新聞社さんが協賛してくれています」とのこと。
おお、それこそが「収益」です。活動にかかる費用に対して収益が足りなければ、活動を続けることはできません。だからこそ、スポンサーを増やす、寄付を募るといったことを考える必要があるのです。
ここまでくると、「事業ごとの収支」がなんとなく見えてきます。
そして次の壁 ーー 共通経費・管理費
ここで次のハードルが現れます。共通経費や管理費です。
理事長さんに聞きました。
活動を知ってもらうために、ホームページは作らないのですか?
「ああ、それは〇〇さんに頼もうと思っています」
ボランティアで? でも、サーバー代やドメイン代はどうします?オンライン寄付を集めるために『Bokinchan』を導入するなら、その費用も必要です。また、それらに対応するスタッフを雇う可能性もあるのでは?
この理事長さんの場合、事務所はご自身の会社と共有する予定とのことで、賃借料はかからないという認識でした。
でも、ホームページの保守管理、会計業務、寄付の対応など、「誰かがやる」共通業務には、目に見えないコストがかかります。
このように、共通経費や管理費を見落としがちなのも、設立時予算でよくある課題です。
この団体は、NPO法人申請まであと一息。活動計画、予算の完成までがんばってくださいね。
年間予算は未来の設計図づくり
次に、総会で承認する年間予算の作り方について考えてみましょう。
年間予算の立て方は、慣れていないと難しく感じるものです。
特に、予算が1,000万円を超え、いくつもの事業が並行して進んでいる場合は、どこにいくら必要なのか、どの事業が収益性が高いのか、日々の活動の中で意識するのは難しいかもしれません。ある団体では、事業部ごとに予算の「取り合い」になる場面もありました。
実例から学ぶ予算の立て方
私が理事を務める「一般社団法人グローバルセンター・コモンズ(通称:インクルベース)」を例にあげてご紹介します。ここは就労継続支援A型事業所を運営している団体で、非営利型一般社団法人として、NPO法人会計基準に沿って会計処理をしています。
2024年度の決算は約3,500万円でした。
決算が出たら、それをベースに来年度の予算を考えます。増減がある場合は、その根拠を整理していきます。
まず、収益のうち、大きなウェイトを占めるのが、国保連からの就労支援事業収益。これは利用者の人数によって変動するため、利用者数の見込み人数で計算します。
次の収益の柱は、生産活動収益です。就労A型は、利用者さんが働いて最低賃金以上を稼ぐことを目的としているので、仕事をこなして売上を稼いでいかなければなりません。インクルベースの場合は、
- 施設外のクリーニング屋さんに働きに行くチーム
- 野外の草刈や清掃チーム
- 内職チーム
- ふすま張りや網戸の張替え等の室内作業チーム
などに分かれて仕事をしています。この各チームごとの売り上げ見込みを積み上げていきます。
費用については、ある程度確定できる固定費と変動する費用に分かれます。
- 固定費(比較的予測しやすい):家賃や光熱費、車両費、人件費。(人件費は人数によって見込みが立つ)
- 変動費:仕事の受注に応じて増える経費。ふすまや網戸の材料費、野外清掃に使う道具や洗剤など。
こうして順番に数字を出していくと、
「あれ、2025年度は黒字になりそう?」となることも。
そんなときは「スタッフの研修費を増やそうか」「新しい機材を入れて、仕事の幅を広げよう」といった前向きなアイディアも出てきます。
予算は未来への舵取り
このように、予算作成とは、単に「数字を並べる」作業ではありません。これからの事業を考え、資源の使い方や団体の方向性を話し合う、大切な機会です。
総会に出さないといけないから「とりあえず去年と同じで」と作るのではなく、できれば理事や職員と一緒に、事業の中身を掘り下げながら進めてみてはいかがでしょうか。
ソノリテのクライアントの皆さまには、予算作成のご相談もお受けし、場合によっては予算会議のファシリテートなどのお手伝いもいたします。
また、税理士の脇坂誠也さんのYouTubeでも、予算の作り方をわかりやすく解説してくださっていますので、あわせてご覧ください。
最後に:NPOならではの柔軟さを活かして
最後に大事な点をひとつ。
NPO法人の場合、予算書の作成が「義務」でないこともありますし、年度途中での予算変更が理事会や総会の議決事項ではないことも多いです。
これは、公益法人などとは異なり、NPOならではの柔軟さや機動力を活かせる強みでもあります。
ただしその分、ガバナンスや透明性の担保が求められます。たとえば、「予算の大きな変更があったら理事会で協議する」といったルールをあらかじめ定めておくと安心です。
市民による自由なボランティア活動を促進するための道具である「NPO」。
その力を最大限に発揮するためにも、ぜひ予算の作り方を工夫してみてください。