寄付文化に革命を起こした「僕のルール」 和田毅さん

1本のメールから始まった「僕のルール」
プロ野球ソフトバンクホークス、今年も日本一に輝きました。私は、2005年にソフトバンクホークスの和田さんと出会って以来、ずっとホークスファンです。
それは、世界の子どもにワクチンを日本委員会(JCV)の事務局に届いた、1本のお問い合わせメールから始まりました。メールは球団営業部のご担当者さまからで、「当球団の和田毅が1球投げるごとに寄付をするなどの”マイルール”を定めて支援をしたいと考えている。このような形での協力は受け入れてもらえるか?」というような内容だったと思います。(私は当時、JCV事務局の職員でした。)
そのころ、阪神タイガースの赤星選手が1盗塁ごとに車いすを支援するなど、プロ選手がチャリティー活動を行う事例はありましたが、まだ著名人がチャリティに積極的に参加することが多い時代ではありませんでした。まして、それを「僕のルール」として公表したり、のちに公共広告機構のCMに採用されたりすることは珍しかったと思います。売名行為と言われてしまったり、チャリティをすることで成績に影響が出たりすることを恐れていたのかもしれません。
当時の代表・細川佳代子さんと事務局長のブーン智津子さんに相談し、すぐに球団の方と連絡をとりました。
「1球10本のワクチン」誕生の背景
JCVはもちろん、どんな方の「想い」も受け止めて、ワクチンを待っている世界の子どもたちへ贈り届けることが使命だと考えていましたので、「喜んでお引き受けします。ご一緒に良い形を考えてまいりましょう」ということになりました。
東京に試合などで和田さんがいらっしゃるたびに打ち合わせを重ね、「1球投げるごとに10本のワクチンを寄付する」という基本のルールが決まりました。細川佳代子さんがよく話されていたエピソードがあります。和田さんは「自分はプロ選手としては体が大きいほうではないので、1球でも多く投げ続けることが目標です。だから、投球数に応じて支援をするというルールは、自分へのエールにもなると思う」と話されていました。そして「他の人の真似はしたくない、自分なりのルールを考えたい」ともおっしゃっていました。
ACのCMで全国に広がった「僕のルール」
こうして、和田さんはJCVのスペシャルサポーターに就任し、公共広告機構(AC)で「僕のルール」がCMになることが決まりました。ACにはそれまでもJCVの活動を広く知っていただくことで大変お世話になっていましたが、テレビCMはもちろん、ラジオや駅張りポスター、電車の中吊り広告など、その効果は抜群でした。

広がり続ける「僕のルール」
ある日、和田さんのこのポスターをご覧になったある大企業の部長さんから、JCVに電話が入りました。「ACのポスターを見ました。うちの会社も、僕のルールで協力したい。打ち合わせに今からお伺いしてもいいですか?」とのこと。
その方は、損害保険会社の方で、営業担当の皆さんのモチベーションが上がらず悩んでいたところ、「これだ!」と思ったそうです。営業ががんばって契約をとってきたら、契約本数に応じて会社が世界の子どもにワクチンを寄付する。会社のためだけでも、自分の給与のためだけでもない。がんばることで知らない国の子どもの支援につながると思うことで、頑張れるのではないか、と。和田さんのポスターを持ち帰り社内に貼っていただき、この会社の「僕のルール」も始まることになりました。
こうして考えてみると、「私なりのルール」は一工夫することでいろいろなパターンが考えられます。コロンバンさんの原宿ロールは、1本につきワクチン1人分の寄付というルールが今でも続いています。簡易包装を選ぶと1人分の寄付、タクシー会社さんがお客さまの乗車メーターごとに寄付、個人の方がランチを1回お弁当持参にすることで寄付、など。
「寄付する理由」が人を動かす
「僕のルール」の本質は、寄付する仕組みや、自然と・あるいは楽しんで寄付ができるというだけでなく、「寄付する理由」にあるということがわかってきます。前出の損害保険会社の方は、営業職員の方のモチベーションをどう上げるか悩まれていました。和田さんの場合は、現役で投げ続けるために自分を奮い立たせる理由付けの一つとして。「いいことをしたい」「誰かの役に立ちたい」というだけではなく、寄付をする理由がそれぞれにある。そのことは、以前ブログで紹介した゛郵便振込取扱票から見えるストーリー”でも触れていますので、あわせてご覧ください。
「僕のルール」がAC広告にのって全国に広がると、JCVの支援者の方にも変化が見られました。もともとJCVでは、寄付のお願いをするのではなく、「一緒に世界の子どもにワクチンを届けませんか?」というスタンスでしたので、「協力提案書」というものがありました。皆さんができる範囲で「協力」したいというご提案をいただき、JCVは資料をお送りしたり、必要であれば支援国のお話に伺うなど、まさに協力関係をつくっていく活動をしていました。その「協力提案書」が僕のルールの広がりとともに毎日のように事務局に届くようになりました。金額は大小さまざまでしたが、自ら協力したいと思ってくださる方が次々と増え、うれしい悲鳴を上げることになりました。
AC広告から20年、続く支援の輪
AC広告で和田さんが協力してくださってから20年がたった今も、JCVには企業・団体、個人の皆さまからの支援が続いているそうです。毎年2億円近くの寄付を集め、ミャンマー、ラオス、ブータン、バヌアツなど、ワクチンを待っている子どもたちに確実に届けています。
1本のメールから始まった「僕のルール」は、寄付は裕福な人や大企業がするもの、寄付なんて偽善だ、といった当時の社会の風潮を変え、「寄付文化の革命」を起こした出来事だったと思います。
NPOサミット2025~推しNPOとカタチにする社会貢献~のお知らせ
今年12月21日(日)、ソノリテ主催のNPOサミット2025~推しNPOとカタチにする社会貢献~に、和田さんがキーノートスピーカーとして出演くださることになりました。JCVへの長年のチャリティ活動をはじめ、東日本大震災などの被災地支援、大リーグ時代に触れたアメリカのチャリティ文化、そして現役引退後の今だからこそ伺える和田さんの想いをお話しいただける予定です。
NPOサミット2025では、和田さんのお話に加え、全国の13のNPOが自らの活動の魅力を発表するほか、近畿ろうきんさんの「推しのNPOプロジェクト」、NPO法人セイエンの関口さんの「NPOと政策提言のちょっとイイ関係」、さらにkintoneの事例紹介もあります。ぜひ、多くの方に会場またはオンラインでご参加いただけるとうれしいです。

2006年 和田さんの社会貢献活動が「ゴールデンスピリット賞」を受賞されたときの写真です

