ファシリテーションが会議・組織・社会を変える!~第13回・会議における「炭火のおこしかた」を極める!(その2)

▼言葉以前の「想い」を積極的にすくい上げる!  

2つめのポイントは、「言葉以前の『想い』に耳を傾ける」です。発言という形をとっている「考え」を受け止めるだけでなく、言葉として表れていない「想い」を見極め、積極的にすくいあげようという姿勢であるといえるでしょう。  

たとえば、視線や表情、ちょっとしたしぐさに「納得していない」という想いを感じ取ったことはないでしょうか。あるいは、口調や声のトーン、話すスピードなどから、言葉とは裏腹な感情を読み取ったこともあるはずです。

まずは、そのようなサインに気づくこと。そして、それに対して適切な介入(働きかけ)を行うこと。そのような、いわば「より積極的な傾聴」がなされれば、メンバーの参加度と納得度は、格段に上がっていくはずです。  

では、どのようにすれば「より積極的な傾聴」が可能となるのでしょうか? ここでは、「サインに気づく」、「適切な介入を行う」の2つのステップに分けて、それぞれ1つずつ具体的な言動を考えてみたいと思います。  

「サインに気づく」という段階では、何よりも「場を観る」意識が大切です。誰かが発言しているときに、発言者だけを見ていたのでは、その発言に対してメンバーがどのような反応を示しているのかを把握することはできません。メンバー一人ひとりの視線や表情、姿勢や態度といった、いわゆる「非言語メッセージ」から、感情を読み取る必要があります。  

では、どうすればいいのでしょうか? これは、具体的な技術というより、「言葉以前の『想い』に耳を傾けよう」という積極的な意識を持つようにすることが、何より大切でしょう。

  武道の世界では、「遠山の目付(えんざんのめつけ)」という言葉があります。相手の目や剣先を見つめてしまうと、かえって細かい動きや相手の心の動きが見えなくなってしまう。したがって、相手の背後にある、遠くの山を見るような、ゆったりとした視線を投げかけることが重要だ――。そういう意味の言葉です。これを宮本武蔵は「観の目つよく、見の目よわく」と表現しました。「見」、すなわち凝視するような見方ではなく、「観」、すなわち広く見回すような見方をせよ、ということでしょう。これを、話しあいの場で応用するのです。  

武道が苦手という方は、サッカーをイメージしてみてはどうでしょうか? サッカーは、ボールのある場所だけを見ていては、決して勝つことはできませんよね。フィールドにいるすべてのプレーヤーの動きが見えているからこそ、絶妙なパス回しが可能となるのです。  

議論に熱くなってしまっている参加者には難しいかもしれませんが、話しあいの「内容そのもの」に入り込まない進行役には、このような見方が可能になるはずです。ぜひ、ゆったりとした気持ちで場に臨みましょう。  

……少し抽象的な話になってしまいました。「適切な介入を行う」というステップについては、具体的な技術を考えてみましょう。  

たとえば、ある参加者から「その意見には納得していないけれど、ここで発言するとやっかいな仕事を押しつけられそうだから、黙っていよう」というような「想い」を読み取ったとします。そのときに、どのような介入方法があるでしょうか? 真正面から「○○さんは、どう思います?」などと問いかけても、意見を引き出せそうにはありませんよね。  

このようなときの対処法として、ここでは、「紙に書いてもらう」、「グループサイズを変える」という2つの方法を紹介します。  

まず1つめの「紙に書いてもらう」ですが、これは、一人ひとりがカードや付箋紙に意見を記入し、進行係が回収して読み上げたり、板書係が皆の見えるところに貼り出したりするだけという、非常にシンプルな方法です。要は「ヒト(発言者)」と「コト(発言内容)」とを切り離すことで、匿名化してしまうのです。そうすれば、「誰が言った」ということを脇に置いて、意見の中身そのものだけに焦点を当てて議論することが可能となります。さらには、「全員が一斉に書くことで、他の人の意見に左右されることなく自分の考えを主張することができる」、「発言量が多い人の意見を抑え、少ない人の意見を拾い上げることができる」といったメリットもあります。  

2つめの「グループサイズを変える」は、たとえば15名の会議の際に、3名×5グループに分かれて、それぞれのグループで意見をとりまとめて紹介するといったように、全体で議論するのではなく、2~3名の小グループで話しあうという方法です。何も、最初から最後まで、15人で話し続けなければならないという決まりはないのです。小グループの方が口を開きやすいですし、短時間にたくさんの意見を集めることができます。また、紹介時には「一人の意見ではない、グループの意見」となりますので、ある程度「自分のことは棚に上げた」議論が可能となるのです。  

「ヒト」と「コト」とを切り離し、自分のことは棚に上げる。これこそ、議論活性化の基本であるといえるでしょう。(つづく)  

 

徳田 太郎(とくだ・たろう) 株式会社ソノリテ パートナー・コンサルタント

1972年、茨城県生まれ。修士(公共政策学)。

2003年にファシリテーターとして独立、地域づくりや市民活動、医療や福祉などの領域を中心に活動を続ける。

NPO法人日本ファシリテーション協会では事務局長、会長、災害復興支援室長を経て現在はフェロー。その他、茨城NPOセンター・コモンズ理事、ウニベルシタスつくば代表幹事などを歴任。

現在、法政大学大学院・法政大学兼任講師、東邦大学・文京学院大学非常勤講師、Be-Nature Schoolファシリテーション講座講師などを務める。

主な著書に『ソーシャル・ファシリテーション:「ともに社会をつくる関係」を育む技法』(鈴木まり子との共著、北樹出版、2021年)。

*本ブログは、『ファシリテーションが会議・組織・社会を変える』(茨城NPOセンター・コモンズ、2013年)に加筆修正を行ったものです。