ファシリテーションが会議・組織・社会を変える!~第18回・会議における「階段のあがりかた」を極める!(その1)
いよいよ、会議も終盤にさしかかってきました。活性化と構造化の技術によって「会して議せず」を防ぐことに成功した私たち。次は「議して決せず」を防ぐ取り組みが求められます。
メンバーの「参加している感」を高めるためには、「話しあいをすることによって、確かに以前よりも一歩高い地点に到達することができた」と実感できる、質の高い結論に至ることが望ましいでしょう。そしてその結論は、より多くのメンバーが「納得」「共感」できるものである必要があります。
それでは、決定事項の質と、参加者の納得度の両方を高め、皆で階段を一歩あがるためには、どのような進行が求められるのでしょうか? ここでは、「『困った状況』への対応」、「対立解消と合意形成」という2つのポイントに絞って考えていきたいと思います。
▼「問題児」はいない。「問題行動」があるのみ!
まずは「『困った状況』への対応」です。皆さんも、会議ではさまざまな「困った状況」に遭遇すると思います。本筋とはあまり関係のない細かい情報や知識をひけらかされる、他人の意見に非難めいた言葉ばかりを並べ立てられる、責任逃れや犯人捜しに終始して前に進まなくなってしまう……。こんなとき、どうすればいいのでしょうか?
前提となるのは、次のような考え方です。
「『問題児』はいない。あくまでも『問題行動』があるのみ。」
私たちはこれまでも、ことあるごとに「ヒト」と「コト」を切り離すのが健全な議論のポイントであることを確認してきました。当然、困った状況に陥ったときも、「困ったヤツだなあ」などと嘆いたり、敵対心を抱いたりするのではなく、淡々と「行為」に対応していくようにしたいものです。
それでは、具体的な対応策を、「脱線」、「衝突」、「座礁」という3つのパターンについて、それぞれ考えてみましょう。
まずは「脱線」です。NPOの会議では、「意見が出なくて困る」ということはあまりありません。「一家言ある」人々が集まっている場合が多く、進行係ならぬ「議長」が一方的に議事を進めていくような場合を除けば、活発な発言が相次ぐことが多いでしょう。しかし、ともすれば、本筋とあまり関連のない情報や知識の開示が始まることがあります。度を超えたものでなければ、気分転換になるなどのメリットもありますが、それを機に話が横道にそれていったり、枝葉末節に終始してしまうと困りますよね。
では、このような「脱線」を防ぐには、どうすればよいでしょうか? 最も効果的なのは、「板書」を利用した軌道修正です。「積み木の組みかた」の項で確認したように、板書係がしっかりと機能していれば、ホワイトボードには「論旨」が書かれているはずです。軌道修正とは、「そもそも、私たちは何を考えなければならないのか」に立ち返ることですから、「なるほど、それは面白いですね。(ホワイトボードを指差し)ところで、いま私たちは○○について考えているわけですが……」などと介入すれば、多くの場合は「ああ、そうだった」と本題に戻るはずです。なにも、「その話は、今日の議題とどのような関係があるのですか?」などと言い切って、相手の感情を害する必要はないのです。
万が一、論旨の可視化がなされていない場合は、「えーと、どのあたりがポイントですか?」などと問いを投げかけながら、そのタイミングで板書を始めるとよいでしょう。(つづく)
徳田 太郎(とくだ・たろう) 株式会社ソノリテ パートナー・コンサルタント
1972年、茨城県生まれ。修士(公共政策学)。
2003年にファシリテーターとして独立、地域づくりや市民活動、医療や福祉などの領域を中心に活動を続ける。
NPO法人日本ファシリテーション協会では事務局長、会長、災害復興支援室長を経て現在はフェロー。その他、茨城NPOセンター・コモンズ理事、ウニベルシタスつくば代表幹事などを歴任。
現在、法政大学大学院・法政大学兼任講師、東邦大学・文京学院大学非常勤講師、Be-Nature Schoolファシリテーション講座講師などを務める。
主な著書に『ソーシャル・ファシリテーション:「ともに社会をつくる関係」を育む技法』(鈴木まり子との共著、北樹出版、2021年)。
*本ブログは、『ファシリテーションが会議・組織・社会を変える』(茨城NPOセンター・コモンズ、2013年)に加筆修正を行ったものです。