NPO法人の役員(理事・監事)はどうやって決めるの?

NPO法人の設立を考えている方から、ご相談を受けることが度々あります。みなさん、やりたいことがあって、仲間がいて、すぐに団体ができそうな勢いです。

NPOに限らず、組織をつくるときには、人・もの・金をどうやって用意するかが大事、ということは聞いたことがあると思います。今回は、その「人」について考えてみたいと思います。

特定非営利活動促進法(通称NPO法)で定められているのは、社員10名、理事3名以上、監事1名以上ということ。理事・監事は社員と重複してもOKです。

ここでいう社員は、働いてお給料を受け取る人のことではなく、総会で議決権をもつ人のこと。つまり、法人の事業計画や予算、決算などについて賛成、反対などの意思表示してくれる人です。法人のミッションに共感し、応援したいと思ってくれる人といってもいいと思います。さらには設立のときに提出した名簿は公開されますので、法人の活動に賛同していることを公開してもいい人、ということになります。これは、結構簡単に集められる場合が多いです。逆に、この10名の名簿が出来なければNPO設立はまだ早い、ということです。出直しましょう。

次に、理事3名以上、監事1名の役員。理事長はおそらく、その法人を立ち上げたいと考えているご本人ということが多いです。はじめは最少人数でやりたいという方が多いので、その場合、あと2人の理事と監事1人。これも、社員10人のうちのだれかが引き受けてくれそうな気がしますよね?

では、ここで理事の役割を考えてみましょう。NPOの運営で大事な会議は、総会と理事会の2種。総会は年に1回以上、社員の議決をもって会務を決定する会議です。その総会に諮る議案を決めるのが理事会です。さらに、会の運営について理事会で協議し、権能によっては理事会で決定することもあります。つまり、法人の活動についてかなり理解し、コミットし、判断するのが理事会です。法人運営に問題があったり、不祥事があった場合に責任をとるのも理事会です。理事会をきちんと開催し、協議した記録が残されていることが、その法人のガバナンスが働いていることの証となり、認定の審査でも重要なポイントになります。

そして、重要なのが、役員の1/3以下にしか報酬が払えないという点です。つまり、2/3の方はボランティアで役員の仕事をしなければなりません。上述したように、かなりの責任が伴うのに、です。

なおさら、自分以外の役員は最少人数にしよう、と考える方が多いです。ですが、ここでもう一つのハードルがあります。2/3はボランティアであることに加え、将来、認定NPO法人を申請しようと考えているとしたら、親族や同族法人に所属している役員が1/3以下であるという要件があります。もし、理事長のご家族が一人、同じ会社の方が一人役員に入ることが決まっている場合、役員の総数を6名以上にすれば、同族は2名までOKとなります。それでもなお最少人数にしておきたいのか、将来認定を目指す前提で6名以上にするのか考えることになります。

では、理事にはどんな人がふさわしいのでしょうか。これも悩みどころです。すでに活動している場合は、一緒に活動しているメンバー、活動するのになくてはならない方、場所を提供してくれたり人を紹介してくれたりと協力してくれている方、など思い当たる方がいると思います。さらには理事会に出て意見を言っていただける方、NPO活動の事例を知っていたり、経営に対する知見がある方だったり。適任だと思った方が忙しすぎて会議に出ていただく時間が取れない場合もあると思います。

先日もある団体のNPO法人化についてご相談いただき、何度かミーティングを重ねてアドバイスをしていました。行政からの補助金をもらえるかもしれない、クラウドファンディングで立ち上げ資金を集め始める、などいくつかの理由で設立を急いでいましたが、申請書をあと数日で出したい、というタイミングで、まだ理事が決まっていませんでした。その代表者に「この時点で理事が決まっていないのならば、NPOは作らないほうがいいのでは?」と厳しいアドバイスをさせていただきました。この団体はとてもいい活動をしていて、協力者もたくさんいました。また代表者のタレント性もあり、起業家を応援するメンターのような方からのアドバイスも受けていたようです。でも、それはいうなれば代表者の個人事業に関して協力者がいるだけで、法人としてのミッション、ビジョンを一緒に進めるコアメンバーはまだ固まっていない状態だったのです。結果的に私のアドバイスを真摯に受け止めてくださって、その後、一人一人に説得をして回られ、1か月後に法人申請、3か月後に設立できました。

この団体のようなリーダー中心型で進むケースは実際に多いと思います。その場合、理事はフォロワー、つまり代表者が進みたい方向、やり遂げたい活動は全力で応援するよ、自分の得意な分野で応援するよ、という方がなることが多いようです。設立当初のNPOでは仕方がないかもしれません。しかしそういった団体は、早晩、代表者がひとりでいろいろ悩むことになってしまいます。理事会に協議したり検討したり、何かを生み出したりするという機能が育たないからです。

有給職員がいる団体であれば、理事会ではなく、事務局が実務を行い、計画や予算もしっかり考えていくということもあるでしょう。でもそういったことができるのは数億円規模のNGOなどで、多くの団体は、立ち上げ当初はスタッフもボランティアの場合がほとんどです。そのうえ理事会は機能していないとなると、代表者ひとりに法人運営の責任がずっしりとのしかかることになってしまいます。

次に、監事の役割を考えてみましょう。監事の役割はNPO法人の業務監査と会計監査です。会計監査のイメージが強いためか、税理士などの専門家かNPOの経験者でなければできないと思われがちです。NPO会計は営利企業の経理とは少し異なりますので、NPO会計の経験者であることが望ましいかもしれません。しかし、なによりも重要なのは、監事の兼職禁止という要件です。監事は中立的な立場で法人運営が適正に行われているかどうか監査をしてくれる人という役割です。よって、団体内の活動で何らかの役割をはたしていたり、会計などの実務を担っている人は監事に適していないのです。NPOのことがわかっていて、活動には参加しなさそうな人、これまた難しいですね。

理事長になるリーダーがやりたいことをやるために、必要な頭数をそろえればすぐにNPOは作れる、と勘違いしている人もいらっしゃるかもしれませんが、そう簡単なものではないのです。活動を進めていくと、ひとりではできることは少なく、いろいろな形で協力者が必要です。そういう協力者を巻き込む力があるかが、NPOのリーダーとして求められるの資質のひとつといえるでしょう。

一緒に法人運営をしたいと思える理事、監事の候補者が何人いるか。もしそれがはっきり見えていないのであれば、時間をかけて関係作りをしていくことをお勧めします。ビジョンを語り実行するリーダー、お金を含めた実務を担える責任者、ボランティアを含めた人を育てられるマネージャー、少なくともこの3人がそろってから法人設立を考えていただくと、バランスがとれたNPO活動ができると思います。

これは、先日、また別の相談者の方と打ち合わせを終えたときのことです。「事業計画って、僕がひとりで作らないとと思っていたけど、理事をお願いしようと思っているひとたちと一緒に作ればいいんですね、なーんだ。目からうろこが落ちました」と。この団体は、きっと彼ひとりでできることよりも、理事のみなさんたちができること、さらに仲間のみなさんとできることへと、事業が広がっていくのだろうなという期待感とともに、楽しそうに帰っていくその後姿を見送りました。