ファシリテーションが会議・組織・社会を変える!~第2回・「モチベーション」とは?

第1回の「はじめに」で、話しあいの進め方如何によっては、理事会などの話しあいを、単なる情報共有や意思決定の場に終わらせるのではなく、失われかけているチームワークや、一人ひとりのモチベーションを取り戻す場にすることができる! と申し上げました。ここではまず、「そもそも『モチベーション』って何だろう?」という点から考えてみたいと思います。

▼モチベーションは3つの要素の掛け算で決まる!

モチベーション。「動機づけ」などと訳されることもありますが、突き詰めれば「やってみよう!」と思う気持ち、いわば「やる気」であるといえます。会議で決まったことをやってみよう、実現してみたい、そういう気持ちがモチベーションに他なりません。

モチベーションを高める方法はいろいろです。たとえば民間企業では、報酬などのように金銭的な要因も、モチベーションの源泉となるでしょう(言葉は悪いですが、馬の鼻先にニンジンをぶらさげるという、あれです)。

しかし、NPOではおカネをモチベーションの源泉とすることは難しいでしょう。また、「やりたい人がやる、やりたい人はやりたくない人の手を引っぱらない、やりたくない人はやりたい人の足を引っぱらない」がNPO活動の原則ですから、むりやり行動を強制することもできません。

では、NPOでは、どのようにしてメンバーの「やる気」を高めていけばよいのでしょうか?

私は、NPOのような「非営利・協同セクター」の組織においては、モチベーションは次のような公式で表すことができると考えています。

モチベーションの大きさ = 正しい方向である感 × 前に進んでいる感 × 参加している感

1つめの「正しい方向である感」は、その事業が、組織の描くビジョン、組織の掲げるミッションに適合していると感じられる度合いです。ベクトルがずれているようでは、モチベーションが高まるはずはありません。

2つめの「前に進んでいる感」は、その事業がきちんと進捗していると感じられる度合いです。長期にわたって停滞しているようでは、せっかくのやる気もしぼんでしまうでしょう。

そして3つめの「参加している感」は、いわば「当事者意識」です。自身のあずかり知らぬところで進んでいる事業に対して、「よっしゃ、やろう!」などと思うはずはありませんよね。

この公式からは、「NPOの会議では、一人ひとりが『正しい方向である感』、『前に進んでいる感』、『参加している感』の3つを実感できるように進行していくことが重要!」という結論が導き出せます。

例として、3つめの「参加している感」を取り上げて考えてみましょう。たとえば、いつも特定の誰か――理事長でも、事務局長でも構わないのですが――だけが事業の方針や内容を一所懸命に考え、提案しているような理事会をイメージしてみてください(「決定」と「執行」が完全に分離されているような大規模なNPOは別として、の話です)。このような状態で、メンバーのモチベーションは上がるでしょうか? あまり期待できそうにもありませんよね。たとえば……

・パターンA:議題となっている事案と、自らの取るべき行動との接点が見いだせず、そもそも「会議に参加しよう」という気になれない。その結果、理事会の当日にメンバーが集まらず、審議すらできないままうやむやに……。

・パターンB:事業の方針や内容を考えるプロセスに参加していないメンバーが、会議の席上で「評論家」として大活躍。「いかがなものか」「そもそも~」「~すべき」といった言葉が飛び交った結果、提案は「継続審議」となり、やがてうやむやに……。

・パターンC:誰も真剣に考えていないことが奏功し(?)、提案は特に異論もなく無事に可決承認。ところが、結局は実行するのも「いいだしっぺ」の一人。やがてその一人も疲れ果て、事業はうやむやに……。

どうでしょう? これでは、当事者全員にとって不幸ですよね。

▼会議失敗の3つのパターンを乗り越えよう!

一般に、会議がうまくいかない要因は、3つに分けて考えることができるとされています。

1つめは「会して議せず」というパターン。集まってはいるけれど、議論にならない。先ほどのパターンAは、「理事会」は形成されているものの、話しあいが成立していませんので、「会して議せず」の例であるといえます(一堂に会していないという点では、「会して議せず」以下かもしれませんね)。

2つめは「議して決せず」というパターン。議論にはなっているものの、結論が出ない(あるいは、質の低い結論しか出ない)。パターンBは、この「議して決せず」の典型例です。

そして3つめは、「決して動かず」というパターン。結論は出たが、誰もやろうとしない、実行に移されない。パターンCは、かろうじて動いてはいるものの、継続性がないという点では、この「決して動かず」の仲間であるといえるのではないでしょうか。

NPOは、「Non-Profit Organization」の略です。Organization、すなわち「組織」として事業に取り組まなければ、それは「NPP」(Non-Profit Person)になってしまいます。中核メンバーである役員や運営スタッフの一人ひとりが、「自分たちは、確かに正しい方向に向かっている」、「この事業は、確かに前に進んでいる」、「私自身が、確かに企画・運営のプロセスに参加している」という感覚を確かめながら、チームとして、組織として取り組んでいかなければ、それはNPOではないのです。

すでにお分かりですよね。先ほどの3つの例をみるまでもなく、会議の良し悪しこそが、NPPとして特定のメンバーが「しんどさ」を抱え込んでしまうか、NPOとしてメンバーが分担・協働しながら、効率的・効果的な活動を展開していけるかのキモなのです。

したがってこのブログでは、「参加者一人ひとりが『正しい方向である感』、『前に進んでいる感』、『参加している感』の3つを実感できる会議のあり方」を追究していくことになります。(つづく)


徳田 太郎(とくだ・たろう) 株式会社ソノリテ パートナー・コンサルタント

1972年、茨城県生まれ。修士(公共政策学)。

2003年にファシリテーターとして独立、地域づくりや市民活動、医療や福祉などの領域を中心に活動を続ける。

NPO法人日本ファシリテーション協会では事務局長、会長、災害復興支援室長を経て現在はフェロー。その他、茨城NPOセンター・コモンズ理事、ウニベルシタスつくば代表幹事などを歴任。

現在、法政大学大学院・法政大学兼任講師、東邦大学・文京学院大学非常勤講師、Be-Nature Schoolファシリテーション講座講師などを務める。

主な著書に『ソーシャル・ファシリテーション:「ともに社会をつくる関係」を育む技法』(鈴木まり子との共著、北樹出版、2021年)。

*本ブログは、『ファシリテーションが会議・組織・社会を変える』(茨城NPOセンター・コモンズ、2013年)に加筆修正を行ったものです。