ファシリテーションが会議・組織・社会を変える!~第12回・会議における「炭火のおこしかた」を極める!(その1)

さて、今回から数回にわたって、「話しあいの活性化」について考えていきます。

どのような話しあいでも、メンバーから十分に意見を出してもらうことが大切です。特に、「参加している感」を重視するNPOの会議では、「絞っても出ない」というくらいに意見を出しきってもらうことが重要でしょう。

とはいえ、アイデアを出すところで燃え尽きてしまったり、盛り上がりすぎてポイントを外してしまったり、無用な対立を引き起こしてしまったりしたのでは困ります。したがって進行役には、バーベキューでほどよい炭火を保つような、活性化の技術が求められることになります。  

具体的には、メンバーの意見をしっかりと受け止める「聴く」姿勢、メンバーのアイデアを十分に引き出す「問う」姿勢が最大のポイントとなるでしょう。この2つの姿勢について、順番に考えてみたいと思います。

 

  ▼進行係は「いかに会議を進めるか」に専念する!  

まずは「聴く」姿勢、すなわち「傾聴」の技術について取り上げます。

  誰しも、「自分の話をまともに聴いてくれない」と感じられる状態では、口を開くのがばかばかしくなってしまうでしょう。したがって、進行係自身がしっかりと発言を受け止めること、さらにはメンバー同士がお互いに発言をよく聴くようにうながすことが、議論活性化の前提となるのです。  

では、どうすれば「聴く」ことができるようになるのでしょうか? 私は、大きく分けて2つのポイントがあると考えます。

  1つめは、「聴くのに早く、話すのに遅く」という姿勢です。この言葉は、聖書の「ヤコブの手紙」の中にみられるそうです。太古の昔から、私たちは「相手に自分を理解してもらう」こと、すなわち「話す」ことに一所懸命で、「自分が相手を理解する」こと、すなわち「聴く」ことは後回しになっていたのでしょう。だからこそ、「聴くのに早く、話すのに遅くしなさい」という戒めの言葉があるのですね。

  たとえば、いわゆる「議長」は、ともすれば次のような議事進行をしてしまいがちです。  

「では、次は○○についてです。これについては皆さんいかがでしょう?(わずかな沈黙)……私自身は、××と考えるのですが、どうですか?(わずかな沈黙)……では、××でいいですね」

  これこそ、「話すのに早く」の典型です。ご本人は「意見が出なかったので、自分の意見を例として挙げたまでだ」、「異論がなかったので、決定したまでだ」とおっしゃるかもしれません。しかし、本当に意見が出なかったのでしょうか? 本当に異論がなかったのでしょうか?  

議長ではない「進行係」は、基本的に自分の意見は口にしません(ひたすらアイデアを出すことに専念する「ブレイン・ストーミング」という話しあいの技法では、進行係があえて突飛な例を挙げて、メンバーの頭を柔らかくするという技術もありますが、これは特別なケースです)。意見、すなわち話しあいの内容そのもの、いわば「What」にあたる部分は、基本的にメンバーにゆだねるべきなのです。  

その代わりに進行係が扱うのは、話しあいの進め方、場の雰囲気といった、「How」にあたる部分です。いかに話しあいを効率的・効果的に進めるかという「過程」や「手順」、いわば「プロセス」の部分に焦点を当て、個々のアイデアという「コンテンツ」の部分は、メンバーから引き出すようにするのです。

  では、どうしても自分の意見を言いたくなったときはどうすればいいのでしょうか? そのときは、「いったん進行係を降りる」必要があるでしょう。「すみません。いま、ものすごくいいアイデアを思いついてしまったのですが、一参加者として発言していいですか?」と断りを入れてから発言し(反対する人はいないでしょう)、また進行係に戻ればよいのです。

  さらに進行係は、参加者一人ひとりにも「聴くのに早く、話すのに遅く」という姿勢をもってもらうように促さなければなりません。私たちはしばしば、他人の意見をすべて「でもね」でかわして、自分の意見を覆い被せてしまうことがあります。もちろん、一人ひとり意見が異なることは当然のことです(米国の作家、マーク・トウェインは、「競馬が成立するのは、見解の相違があるからだ」という言葉を遺しました。まさに至言であるといえるでしょう)。とはいえ、「でもね」でブロックしてしまうと、それは「意見のドッジボール」になってしまいます。まずはしっかりと意見を受け止めて、その上で自分の意見を投げ返すようにすれば、「意見のキャッチボール」になるはずです。ドッジボールになってしまっている場合は、進行係が率先して「○○さんの話を最後まで聴いてみましょうよ」などと介入する必要があるでしょう。(つづく)

 

    徳田 太郎(とくだ・たろう) 株式会社ソノリテ パートナー・コンサルタント

1972年、茨城県生まれ。修士(公共政策学)。

2003年にファシリテーターとして独立、地域づくりや市民活動、医療や福祉などの領域を中心に活動を続ける。

NPO法人日本ファシリテーション協会では事務局長、会長、災害復興支援室長を経て現在はフェロー。その他、茨城NPOセンター・コモンズ理事、ウニベルシタスつくば代表幹事などを歴任。

現在、法政大学大学院・法政大学兼任講師、東邦大学・文京学院大学非常勤講師、Be-Nature Schoolファシリテーション講座講師などを務める。

主な著書に『ソーシャル・ファシリテーション:「ともに社会をつくる関係」を育む技法』(鈴木まり子との共著、北樹出版、2021年)。

*本ブログは、『ファシリテーションが会議・組織・社会を変える』(茨城NPOセンター・コモンズ、2013年)に加筆修正を行ったものです。