ファシリテーションが会議・組織・社会を変える!~第11回・会議における「土俵のつくりかた」を極める!(その5)

▼承認&称賛のメッセージであたたかい場をつくる!

「場づくり」の最後のポイントは、「関係設計」です。

NPOの理事会は、改選直後などの特別な場合を除いて、おおむね気心の知れたメンバーが集まっているでしょうから、初対面の人々が集まるワークショップのような場と異なり、アイスブレイク(参加者の緊張をほぐすとともに、安心して発言することができる空間や関係性をつくるための、自己紹介などのちょっとしたワーク)の時間をことさらに設ける必要はないでしょう。

とはいえ、いきなり本題に入るのは考えものです。ある程度、場をあたためてから重要なテーマに入った方が、活気のある話しあいとなる可能性が高いでしょう。

ここで、議案づくりの際に「重要でも緊急でもない」と審議の対象から外された報告事項が役に立ちます。この中から、メンバーの労をねぎらったり、行為を称賛したりすることにつながる案件をいくつか取り上げ、「○○さん、情報誌の発行作業、おつかれさまでした!」「○○さんのおかげで、イベントは大成功でした!」などと、互いに拍手を送りあうのです。

NPO活動の多くは、金銭的な報酬が得られるものではありません。それでも多くの人々が携わっているのは、「自らの活動が、何らかの形で、社会の(他人の)役に立っている」という実感が得られるからではないでしょうか? であれば、活動の意義や組織への貢献を認める「承認のメッセージ」は、一人ひとりにとって重要なモチベーション要因であるはずですし、そのようなメッセージを互いに送りあう「称賛の文化」は、他のどのような形態の組織よりも必要なものであるはずです。

特に、日頃なかなか光の当たらない事務方の仕事に対しては、ことあるごとにしっかりとスポットを当てることが大切です。たとえば、理事会の会場を手配する、議案書をとりまとめるといった、ともすれば「当たり前のこと」と意識されがちな行為も、善意に支えられた手間と労力の上に成り立っているのです(これは、事務局スタッフが有給であるか、無給であるかという点とは無関係です)。ぜひ、会議の冒頭であたたかい拍手を送るようにしましょう。

これらの行為は、拍手を送られた人だけではなく、その場にいるメンバー全員の「前向きな気持ち」を引き出すことにつながります。これこそ、「関係性」という重要なインフラストラクチャーの構築なのです。

なお、会議が始まるまでの時間を活用するのも一つの手です。近況報告と称して、それぞれが、前回の会議から今日までに経験した「よかったこと」「うれしかったこと」などを手短に述べあうなどすれば、前向きな気分で話しあいに臨むことができるようになるのではないでしょうか。(つづく)



徳田 太郎(とくだ・たろう) 株式会社ソノリテ パートナー・コンサルタント

1972年、茨城県生まれ。修士(公共政策学)。

2003年にファシリテーターとして独立、地域づくりや市民活動、医療や福祉などの領域を中心に活動を続ける。

NPO法人日本ファシリテーション協会では事務局長、会長、災害復興支援室長を経て現在はフェロー。その他、茨城NPOセンター・コモンズ理事、ウニベルシタスつくば代表幹事などを歴任。

現在、法政大学大学院・法政大学兼任講師、東邦大学・文京学院大学非常勤講師、Be-Nature Schoolファシリテーション講座講師などを務める。

主な著書に『ソーシャル・ファシリテーション:「ともに社会をつくる関係」を育む技法』(鈴木まり子との共著、北樹出版、2021年)。

*本ブログは、『ファシリテーションが会議・組織・社会を変える』(茨城NPOセンター・コモンズ、2013年)に加筆修正を行ったものです。