ファシリテーションが会議・組織・社会を変える!~第17回・会議における「積み木の組みかた」を極める!(その2)

▼「フレームワーク」で複雑なことがらを整理する! 議論を整理するための2つめのポイントは、「『フレームワーク』を活用する」です。 「論理の3点セット」を意識しながら板書するだけでも、かなり議論を整理することが可能となりますが、「フレームワーク」というツールを活用することで、さらなる構造化に挑もうではないか! というのが、この項の内容となります。 「フレームワーク」とは、いわば「議論の枠組み」です。そのフレーム(枠)に当てはめると、ものごとをモレなく、ダブリなく整理できる。そういう便利な枠組みを「フレームワーク」と呼んでいます。 たとえば、どのようなフレームがあるでしょうか? もっともシンプルなのは、質と量、大と小、増と減、容易と困難、理想と現状、目的と手段、原因と結果、オンとオフなどなど、相反する2つの要素を対立させる「二項対立」でものごとを考えることでしょう。

松・竹・梅、心・技・体、守・破・離、知・情・意、真・善・美、自助・共助・公助、私益・共益・公益、立法・行政・司法のように、3つの要素の「三位一体」で考える、というのも、かなり使い勝手のよいフレームワークです。ビジネスの世界で広く用いられているフレームワークに、「環境分析の3C」というものがあります。Customer(市場・顧客)、Competitor(競合)、Company(自社)の頭文字をとったものですが、これなども「サービスの受益者」、「同様のサービスを提供する他の組織」、「自分たちのNPO」と捉えれば、そのまま用いることができるでしょう。 また、自分たちの事業は「誰に対して(Who)」、「どのようなサービスを(What)」、「どのようにして提供する(How)」事業なのか――と整理すると、ターゲットや差別化のポイント、磨きをかけるべきノウハウやスキルを明確にすることができるようになります。 モノをつくって販売するような事業を営んでいるのであれば、製造業における生産管理の基本である「QCD」(Quality・品質管理、Cost・原価管理、Delivery・工程管理)というフレームワークで改善の方法を考えることができるでしょう(某牛丼チェーンの「うまい、やすい、はやい」というキャッチコピーは、まさにこのフレームワークから生まれています)。 春夏秋冬、東西南北、起承転結、老若男女のように、4つの要素から成り立つフレームワークもあります。助成金や補助金に応募するための企画書を作成するときなどに用いる、「自分たちでコントロールできること(内部環境)」、「コントロールできないこと(外部環境)」という2つの側面について、それぞれ「プラス面」「マイナス面」を考えるという、「SWOT」という分析法が有名ですね。これも立派なフレームワークの1つです。

  また、「マーケティングの4P」(Product・製品やサービス、Price・価格、Place・販売ルート、Promotion・販売促進法)というフレームワークも、自分たちのサービスをいかに受益者に届けるか――を考える際には、大きな助けとなるのではないでしょうか。 このように、既存のフレームワークを活用することはもちろんですが、それだけではなく、自分たちでオリジナルのフレームワークをつくりだすことも可能です。もっともシンプルなのは、SWOT分析のように、2つの評価基準を「縦軸」と「横軸」に置き、4つの象限でものごとを考えるという方法です。 たとえば、私がNPOの事業を検討する際にしばしば用いるのが、「ミッション適合性」と「収益性」という2つの軸でつくるフレームワークです。「その事業は、自分たちのめざすべき姿に対して、どの程度適合しているだろうか?」という軸と、「その事業は、どの程度の収益性があるだろうか?」という軸を組み合わせて、取り組むべきか、見送るべきかを判断するのです。

このように、フレームワークを用いると、実にあざやかに議論を整理することができます。しかしそれゆえに、進行係や板書係は、「使い方」に十分な配慮が必要です。議論の内容にそぐわないフレームワークを持ち込むと、かえって焦点がぼやけてしまったり、混乱したりしてしまいますし、また、性急にフレームワークに当てはめて議論しようとすると、メンバーが「誘導されている」と感じてしまうこともあるでしょう。 よく切れる刃物ほど、取り扱いには注意が必要です。得意げにフレームワークを振りかざすのではなく、主役はあくまでもメンバーの側であると心得て、進行係や板書係は「補助線を引く」くらいの意識にとどめるようにしたいものです。(つづく)     徳田 太郎(とくだ・たろう) 株式会社ソノリテ パートナー・コンサルタント

1972年、茨城県生まれ。修士(公共政策学)。

2003年にファシリテーターとして独立、地域づくりや市民活動、医療や福祉などの領域を中心に活動を続ける。

NPO法人日本ファシリテーション協会では事務局長、会長、災害復興支援室長を経て現在はフェロー。その他、茨城NPOセンター・コモンズ理事、ウニベルシタスつくば代表幹事などを歴任。

現在、法政大学大学院・法政大学兼任講師、東邦大学・文京学院大学非常勤講師、Be-Nature Schoolファシリテーション講座講師などを務める。

主な著書に『ソーシャル・ファシリテーション:「ともに社会をつくる関係」を育む技法』(鈴木まり子との共著、北樹出版、2021年)。

*本ブログは、『ファシリテーションが会議・組織・社会を変える』(茨城NPOセンター・コモンズ、2013年)に加筆修正を行ったものです。