ファシリテーションが会議・組織・社会を変える!~第21回・会議における「階段のあがりかた」を極める!(その4)

▼アイデア自体ではなく「判断基準」に焦点を当てる!
対立解消・合意形成のポイント、2つめは「『案』ではなく『軸』に焦点を当てる」です。「視点を変える」が「メガネ」の話であるとすれば、こちらは「モノサシ」の話です。
複数の選択肢を前にすると、私たちはすぐに「どのアイデアがもっとも優れているか」を考えます。参加者として場に臨む場合はそれでもいいでしょうが、進行係は「コンテンツ」ではなく「プロセス」を扱うのでしたよね? そうであるならば、少し異なった頭の使い方が求められるはずです。そう、「良し悪し」ではなく、「決めかた」に焦点を当てるのです。
「どの意見がよいか?」というアイデアそのものはメンバーにゆだね、「どのように選ぶか?」という判断基準にフォーカスする。これこそが、メンバーの納得度を高める合意形成のコツであるといえるでしょう。
具体的な手順は、次のようになります。判断基準、言い換えれば「軸」は複数あるのが通常です(ミッション適合性、収益性、話題性、波及効果性などなど)。したがって、案がある程度出そろったら、今度は「どのような点を重視して決定すればよいでしょうか?」などと問いかけ、軸出しに移ります。そして軸が出そろったら、「どの基準をどの程度重視しましょうか?」と呼びかけます。そのようにして決定した判断基準に、個々の案を当てはめ、合意の上で最終決定とすればよいのです。
さて、このように視点を変えたり、基準に焦点を当てたりして合意形成をめざすわけですが、このときに注意したいのが、「二者択一の罠」に陥らないようにすることです。 たとえば、A案とB案のどちらにするか、検討を行っているとします。このようなとき、議論が熱を帯びれば帯びるほど、「Aか、Bか」だけに意識が集中してしまいます。しかし、本来は「Aも、Bも」という選択肢や、あるいは「AでもBでもなく、C」という第3の選択肢もあるはずですよね。
私が実際に経験したケースを一つ、紹介しましょう。あるNPOで写真展の開催を企画していたのですが、資金不足から、「展示する写真の数を減らしてレンタル料を抑えるか、会期を短くして会場費を抑えるか」という議論になりました。まさに「Aか、Bか」という議論の典型です。 結局、どうしたか。まず、「軸」の議論が行われました。その結果、できるだけ多くの人に観てもらうことを優先するべきだ、との意見が優勢となり、一度は「展示点数よりも会期を優先しよう」という結論に落ち着きかけたのです。しかしそのとき、「視点」の転換が行われました。経費を抑えるのではなく、収入を増やす方法があるのではないか、という案が出たのです。 その結果、「資金集めにつながるようなプレイベントを行い、それによって得た資金で、展示点数も、会期も確保する」という結論を得ることができました。いわば「Aも、Bも」です。さらにこのアイデアには、プレイベント自体が写真展の広報になるため、「できるだけ多くの人に観てもらう」きっかけにもなる――という大きな副産物がありました。この結論に、メンバーのモチベーションが一気に高まったのは、言うまでもありません。まさに「二兎を追う者は三兎を得る(?)」ではないでしょうか。
このような議論は、「三人寄れば文殊の知恵」の典型であるといえるでしょう。ちなみに、知恵の象徴である文殊菩薩、インドでの発音は「マンジュー」に近いそうです。マンジューといえば、私たちにとっては「おまんじゅう」ですよね。実は、文殊菩薩とおまんじゅう、語源は同じところにあるそうです。共通点は、「やわらかい」ということ。おまんじゅうは「やわらかいお菓子」、文殊菩薩は「やわらかい頭をもっている菩薩様」。そう、「三人寄れば文殊の知恵」を実現するためには、一人ひとりが頭をやわらかく、視野を広く保つ必要があるのですね。(つづく)    


徳田 太郎(とくだ・たろう) 株式会社ソノリテ パートナー・コンサルタント

1972年、茨城県生まれ。修士(公共政策学)。

2003年にファシリテーターとして独立、地域づくりや市民活動、医療や福祉などの領域を中心に活動を続ける。

NPO法人日本ファシリテーション協会では事務局長、会長、災害復興支援室長を経て現在はフェロー。その他、茨城NPOセンター・コモンズ理事、ウニベルシタスつくば代表幹事などを歴任。

現在、法政大学大学院・法政大学兼任講師、東邦大学・文京学院大学非常勤講師、Be-Nature Schoolファシリテーション講座講師などを務める。

主な著書に『ソーシャル・ファシリテーション:「ともに社会をつくる関係」を育む技法』(鈴木まり子との共著、北樹出版、2021年)。

*本ブログは、『ファシリテーションが会議・組織・社会を変える』(茨城NPOセンター・コモンズ、2013年)に加筆修正を行ったものです。