郵便振込取扱票から見えるストーリー

寄付の支払い方法として、オンラインでのクレジットカード決済が普及してきましたが、まだまだ根強いのが郵便局の振込取扱票、いわゆる郵振による寄付です。私が以前勤めていたNGOでも、毎日多くの郵振を受け取り、データベースに入力をしていました。

振込用紙に印字してあるものを見たことがあるのではないでしょうか。加入者名に団体名を印字したり、会費や寄付などのチェック項目を印字することができます。さらには寄付者の方のご住所やお名前を印字してお送りすると、振り込むときにあの小さな欄に手書きする面倒がなく、チェックをするだけよいのでとても便利だし、名前が書かれた振込用紙を受け取ってしまうと、いつかまた寄付しようと思ってくださるのが不思議です。

この郵振、実はそれ以外にもすごい威力があるのです。

というのも、「通信欄」にコメントを書いて送ってくださる方が少なからずいるのです。「年金が出たので少しですが送金します」「がんばってください」「ワクチンを届けてください」「世界の子どものお役に立てるとうれしいです」など。受け取った事務局スタッフが励まされる言葉で、私もその当時、このコメントに力をもらっていました。

そんなある日のことです。通信欄に「今月は100メートルでした。」と書かれている振込用紙を見つけました。宮城県にある、とある工事現場の事務所からです。その次の月も、「今月は120メートルでした。」と書かれています。思い切って、振込用紙に書かれている電話番号にお電話をしてみました。

「いつもご寄付をいただきありがとうございます。世界の子どもにワクチンを日本委員会、事務局の江崎です。あの…振込用紙に記入されている何メートルというのは、なんのことでしょうか?」

電話口に出てくださったのは工事の現場監督さんでした。トンネル工事の現場事務所に置いた募金箱からのご寄付だとうかがうことができました。危険をともなう工事だから、安全に掘り進められたらその距離に20円をかけて寄付しようと決めている、とのこと。ソフトバンクホークスの和田投手のAC広告をご覧になって思いついたのだそうです。ポリオワクチン1人分が20円。工事が安全に進むごとに世界の子どもにワクチンを届けようと考えた、とおっしゃっていました。そしてその試みが、現場で働く皆さんの励みになっているのだそうです。また、それだけではなく、工事には不可欠な地域の方との関係作りにも役立っているともうかがいました。寄付のポスターを貼ったり募金箱を置いたことで、住民の方が現場事務所に足を運んでくれるようになったのだそうです。

全国各地から寄せられるご寄付には、このようにストーリーがあることがわかり、感動したことを思い出します。

この工事現場のエピソードをきっかけに、寄付者の方のストーリーを語っていただきたいとワクチン寄付者の集いを開きました。本当に100人いたら100通りのストーリーがありました。

この経験はのちに、「僕のルール・私の理由」エッセイコンテストにつながり、第1回日本ファンドレイジング大賞を受賞するまでになりました。

寄付をするという行為には、「お金に余裕のある人が人助けのためにやること」という以外の意味合いがたくさんあります。自分が行動したくてもできないことを誰かに託すこともそのひとつ。たとえば、ミャンマーの子どもたちにワクチンを届けたいけど、自分で行くことはできない。だからNPO団体に届けてもらおうと思う方がいらっしゃる。他にも、自分が感じている感謝の気持ちを表現する手段の一つとして寄付をしているというストーリーをもっている方がいらっしゃったり…。誰にも、寄付をする「理由」があります。その想いを受け止めてしっかり使う、それがNPOの使命です。

1枚の郵便払込取扱票に書かれたストーリーを、ぜひ大切に受け止めて、コミュニケーションにつなげてください。そして、その瞬間の感動で終わるのでなく、データベースを工夫して活用していただくことで、その思いをつなげていくことができるのではないかと思います。

▼ ↑の郵便払込取扱票のサンプルはワールドランナーズジャパンさんのものです。ご寄付はこちらから。

▼ 世界の子どもにワクチンを日本委員会さんでは、クリスマス募金キャンペーンを実施中です。こちらから。

▼ 寄付の背景にあるストーリーを点で終わらせるのではなく、線につなげるにはデータベースの活用が効果的です。ソノリテの支援者名簿管理プラットフォーム ぼきんとん について、詳しくはこちらをご覧ください。