ファシリテーションが会議・組織・社会を変える!~第9回・会議における「土俵のつくりかた」を極める!(その3)

▼「議長」と「進行係」を分けて納得度を高める!

3つめのポイントは「役割設計」です。

皆さんの組織では、会議の進行係を、誰が務めていますか? 理事長? 事務局長? 多くの場合、特に疑問も抱かずに、「組織内のリーダー格の人」が進行係を務めているのではないでしょうか。

「『特に疑問も抱かずに』とは失礼な! ウチの組織の定款には、『理事会の議長は、理事長がこれに当たる』と書いてあるんだ。理事長が議長を務めなければ、定款違反だろう」

おっしゃる通りです。多くのNPOでは、定款に「議長は理事長が務める」といった記載がなされていますね。では、質問の角度を変えてみましょう。「議長」と「進行係」は、イコールでしょうか?

確かに、通常は議長が議事を進行しますので、これらは同一のものであると考えられています。しかしここでは、あえて「議長」と「進行係」とを分けることを提案したいと思います。

議長は、定款通り、理事長が務めます。その役割は、「会議の開会・閉会宣言」、「進行係の選任」、「議案の採決」、「可否同数時の決裁」など。その他の議事進行部分は、進行係に任せるのです。

なぜ、役割分担をするのか? 最大の理由は、「リーダー格の人は、誰よりもよくしゃべるから」です。……いやいや、積極的に発言をされるのは、とてもよいことですよ、はい。しかしですね、ともするとそれが「メンバーのモチベーションを下げる」大きな要因ともなりかねないのです。

たとえば、会議法に関する古典的名著ともいえるマイケル・ドイル&デイヴィッド・ストラウスの『会議が絶対うまくいく法』では、「マネジャーは議事進行をしてはならない」という項目を、ルールの筆頭に掲げています。一節を引用してみましょう。

「多くの会社で行われている通常の会議では、もっとも地位が高くて決定を下せる立場にあるマネジャーが議長になっている。マネジャーが会議のプロセスをコントロールし、誰よりも多く発言し、最後には自分で決定を下しているのだ。その結果、メンバーの発言は少なく、士気が上がらず、情報も集まらない。そして結局、マネジャーとメンバー双方の貴重な時間を無駄遣いしている」(『会議が絶対うまくいく法』)

民間企業を例に書かれていますので、より民主的な手順で話しあわれている(はずの)NPOとは若干事情が異なりますが、それでも私が関わったNPOのいくつかでは、似たり寄ったりの光景が繰り広げられていました。やはり、リーダー格の人は、最も重い責任を負っているが故に、誰よりも熱が入ってしまい、中立的な立場での議事進行が難しくなってしまうのでしょう。

ですので、議長とは別に、自分の意見を主張したり、他人の発言を批判したりしない「中立的な立場の進行係」を設けることで、話しあいの進め方についての納得度を高めていこうというわけです。さらに、進行係を各理事が持ち回りで務めるようにすれば、一人ひとりの「参加している感」を高めることにもなり、一石二鳥です。

なお、進行係に求められる「かんがえかた」と「ふるまいかた」については、「炭火のおこしかた」の項で詳述します。(つづく)



徳田 太郎(とくだ・たろう) 株式会社ソノリテ パートナー・コンサルタント

1972年、茨城県生まれ。修士(公共政策学)。

2003年にファシリテーターとして独立、地域づくりや市民活動、医療や福祉などの領域を中心に活動を続ける。

NPO法人日本ファシリテーション協会では事務局長、会長、災害復興支援室長を経て現在はフェロー。その他、茨城NPOセンター・コモンズ理事、ウニベルシタスつくば代表幹事などを歴任。

現在、法政大学大学院・法政大学兼任講師、東邦大学・文京学院大学非常勤講師、Be-Nature Schoolファシリテーション講座講師などを務める。

主な著書に『ソーシャル・ファシリテーション:「ともに社会をつくる関係」を育む技法』(鈴木まり子との共著、北樹出版、2021年)。

*本ブログは、『ファシリテーションが会議・組織・社会を変える』(茨城NPOセンター・コモンズ、2013年)に加筆修正を行ったものです。