ファシリテーションが会議・組織・社会を変える!~第10回・会議における「土俵のつくりかた」を極める!(その4)

▼書記は「板書係」と「議事録係」の2人を置く!

役割分担では、もう一つ、「書記を2人置く」という点も重要です。

通常、「書記」といえばすなわち「議事録係」ですが、議事録係とは別に「板書係」を設けるのです。

それぞれの役割は、次のとおりです。

・板書係 議論をホワイトボードや模造紙に書いていく。議論の「可視化」が目的。

・議事録係 手元のノートパソコンで議事録をつくっていく。議論の「記録」が目的。

板書係は、一人ひとりの発言を受け止め、文字にすることで、目で見える状態にしていきます。「いま、何の話をしているのか(しなければならないのか)」を明確にするとともに、こみいった話を整理していくのです。具体的な書き方は、「積み木の組みかた」の項で解説しますが、何より重要なことは、とにかく「マーカーを手にする」ということです。参加者一人ひとりがそれぞれ手元の資料ばかりを見つめている会議を、皆が顔を上げ、板書を眺めながらベクトルの揃った話しあいをする会議に変えるためには、とにかく「みんなが見えるところに」「みんなに見えるように」「リアルタイムで書いていく」ことが大切なのです。上手下手は二の次、三の次です。

なお、少人数の会議の場合は、進行係が板書をしながら進めていくのも手です。また、他人の意見に耳を貸さず、自分の意見ばかりを主張するような行動が見られる場合、その人に板書係をお願いすれば、「聴く」ことのよいトレーニングになるでしょう。

板書係が「いま、ここ」のために存在するのに対して、議事録係は「会議の後」のために存在します。参加者が決定事項を確認したり、欠席者が議論の経過をたどったり、さらには理事会の動きを会員に伝えるためには、正確な議事録が欠かせません。もちろん、会議が終わってから議事録を作成すればよいのですが、多くの場合、議事録作成という作業は、緊急な案件とも重要な案件とも位置づけられず、他の業務に追いやられ、どんどん後回しにされてしまいます。やがて正確な記憶が失われ、「あれって、どうなったんだっけ?」などという言葉が事務局内で飛び交い、それぞれが「自分にとって最も都合のよい」解釈を差し挟み……と、事業の停滞や混乱の原因となってしまうのです。

ですから、会議の最中に、議事録をつくってしまう。そのためにこそ、議案をつくる段階で、最終的な議事録の体裁を意識していたのです。たとえば、議案書では「○○について、担当理事から進捗状況の報告と提案を行う」と書かれていた箇所を、「○○について、担当理事から下記の通り進捗状況の報告と提案が行われた」と修正し、その後に発言内容を追記し、「結果(承認か、否決か、保留か)」および「結果に至った理由」を明記すれば、それだけで立派な議事録のできあがりです。これならば、会議終了からさほど間をおかずに参加者に配布し、記憶が新鮮なうちに確認をしてもらうことができますよね。

さらに、入力画面をプロジェクタでスクリーンに投影すれば、議事録の内容や表現を確認しながら議事進行ができますので、確認作業もよりスムーズなものとなり、「前に進んでいる感」を演出することが可能となります。また、話しあいでは、ともすれば「結論」が不明確なまま次の議題に移ってしまうことがありますが、議事録を確認しながら進めれば、そのようなこともなくなるでしょう。

なお、板書係に求められる「かんがえかた」と「ふるまいかた」については、「積み木の組みかた」の項で詳述します。(つづく)



徳田 太郎(とくだ・たろう) 株式会社ソノリテ パートナー・コンサルタント

1972年、茨城県生まれ。修士(公共政策学)。

2003年にファシリテーターとして独立、地域づくりや市民活動、医療や福祉などの領域を中心に活動を続ける。

NPO法人日本ファシリテーション協会では事務局長、会長、災害復興支援室長を経て現在はフェロー。その他、茨城NPOセンター・コモンズ理事、ウニベルシタスつくば代表幹事などを歴任。

現在、法政大学大学院・法政大学兼任講師、東邦大学・文京学院大学非常勤講師、Be-Nature Schoolファシリテーション講座講師などを務める。

主な著書に『ソーシャル・ファシリテーション:「ともに社会をつくる関係」を育む技法』(鈴木まり子との共著、北樹出版、2021年)。

*本ブログは、『ファシリテーションが会議・組織・社会を変える』(茨城NPOセンター・コモンズ、2013年)に加筆修正を行ったものです。