ファシリテーションが会議・組織・社会を変える!~第25回・ファシリテーションとは?(その2)

▼「たし算」ではなく「かけ算」の場をつくる!

 それでは、ファシリテーションによって、どのようなメリットがもたらされるのでしょうか。

 堀公俊さんの定義には、「集団による知的相互作用」という言葉がありました。これは、「三人寄れば文殊の知恵」ということわざの指し示す内容と、ほぼイコールであるといってよいでしょう。われわれ凡人には、知恵の象徴である文殊さまのように、すぐれた解をパッと生み出すことはできない。けれど、三人(複数人)でワイワイガヤガヤやっていれば、もしかしたら文殊さまと同じような知恵が得られるかもしれない――。これが「三人寄れば文殊の知恵」です。流行りの言葉でいえば、「協働(collaboration)による創発(emergence)の実現」といったところでしょうか。

 しかし、「三人寄る」ことは「文殊の知恵」の必要条件であっても、十分条件ではありません。そこで求められるのが、それを「促進する働き」、すなわちファシリテーションという機能なのです。

 すなわちファシリテーションとは、「複数の人が集まる場において、集まった人々の総和以上の何かが生み出されるよう働きかけること」であるといえるでしょう。たとえるならば、情報や知識、知恵、あるいは経験や能力、技術など、一人ひとりの人が持ち寄ったものを、単純に「たし算」して終わるのではなく、「かけ算」によって大きな成果が得られるような「場」をつくり、育むことが、ファシリテーターの最大の役割だといえるのではないでしょうか。

▼実行の鍵を握る「納得感」を重視する!

 側面あるいは後方から支援・促進することで、協働による創発を実現する。これは単に「すぐれた解に到達する」ことだけでなく、もう一つのメリットを私たちにもたらします。それは、「当事者の納得度が高まる」という利点です。

 このブログの第2回(「モチベーションとは?」の項)で、うまくいかない会議を3つのパターンに分類しました。1つめは、集まってはいるけれど、議論にならないという「会して議せず」。2つめは、議論にはなっているものの、結論が出ない(あるいは、質の低い結論しか出ない)という「議して決せず」。そして3つめは、結論は出たが、誰もやろうとしない、実行に移されないという「決して動かず」です。

 ではなぜ、結論が出ているにもかかわらず、実行に移されないのでしょうか? そもそも会議は手段であり、「何か」をやるために話しあっているはずです。実行に移されないのであれば、何のために話しあったのか分かりませんよね。

 この鍵を握るのが「納得感」です。結論が腑に落ちていなければ、実行に移そうというモチベーションが上がらない。だからこそ「当事者の納得度」が非常に重要となります。

 ここで思い出したいのが、「ファシリテーターは先生ではない」ということです。先生、すなわち他者が「与えた」解と、自ら「掴んだ」解とでは、どちらの納得度が高いでしょうか? ……いうまでもなく、後者です。他人の子どもよりも、自分の子どものほうがかわいい。だからこそ、そのアイデアを形にしようという意識(まさに「モチベーション」ですね!)が強く働き、行動、そして実現につながっていく可能性が高まるのです。

 100点満点の解であっても、実行に移されなければ、得られる成果はゼロです。それに対し、仮に80点くらいの出来であっても、一歩前に進めば80の成果が、二歩前に進めば160の成果が得られます。効果(effect)は、解の質(quality)と納得度(acceptance)のかけ算によってもたらされるのです。だからこそファシリテーションにおいては、メンバーの「納得感」を重視するのです。(つづく)

徳田 太郎(とくだ・たろう) 株式会社ソノリテ パートナー・コンサルタント

1972年、茨城県生まれ。修士(公共政策学)。

2003年にファシリテーターとして独立、地域づくりや市民活動、医療や福祉などの領域を中心に活動を続ける。

NPO法人日本ファシリテーション協会では事務局長、会長、災害復興支援室長を経て現在はフェロー。その他、茨城NPOセンター・コモンズ理事、ウニベルシタスつくば代表幹事などを歴任。

現在、法政大学大学院・法政大学兼任講師、東邦大学・文京学院大学非常勤講師、Be-Nature Schoolファシリテーション講座講師などを務める。

主な著書に『ソーシャル・ファシリテーション:「ともに社会をつくる関係」を育む技法』(鈴木まり子との共著、北樹出版、2021年)。

*本ブログは、『ファシリテーションが会議・組織・社会を変える』(茨城NPOセンター・コモンズ、2013年)に加筆修正を行ったものです。