ファシリテーションが会議・組織・社会を変える!第35回・「リーダーシップ」への応用(その5)
▼相互依存の中でお互いが「他力」を使いあう!
最後に、あるNPOの事例をご紹介したいと思います。
子育て支援を中心に活動しているそのNPOは、2人のリーダーがバランスよくリーダーシップを発揮し、事業と組織を発展させてきました。
一人は、そのNPOの設立者であり、どちらかというと自らが先頭に立ち、グイグイと引っ張っていくタイプです。ミッションを熱く、時にユーモアも交えて語るその姿勢には説得力があり、業界での知名度も高く、熱心なファンも数多くいます。モードPにちなんで、仮にP理事長としましょう。
もう一人は、途中からそのNPOにスタッフとして参画するようになったA事務局長です(もちろん、モードAにちなんだ仮名です)。Aさんは、どちらかというと一歩退いて、暖かいまなざしでみんなの様子を見ながらものごとを進めていくようなタイプで、その人柄から広く人望を集めています。
外部からは、「Pさんのカリスマ性で順調に発展してきたNPO」というのが一般的な認識となっていますが、実際にはそれほど単純な話ではありません。多くの団体と同様に、紆余曲折を続けながら成長してきたのです。
たとえば、想いが強いために、ともすればメンバーを置き去りにしたままどんどん話を進めてしまうPさんに反発し、多くのメンバーが一度に組織を離れてしまうというトラブルもありました。講演などでPさんの情熱に打たれ、ある種の憧れを抱いて活動に参加したメンバーほど、現場で直面するちょっとした行き違いが「失望感」につながりやすいのですが、Pさんはそのあたりに無頓着だったのです。
そのようなときに、Aさんの「ともに場をつくり、ともに想いを育む」促進型のリーダーシップが力を発揮しました。子育て中のお母さんたちの交流の場(サロン)を丁寧に運営していくことで、参加していたお母さんたちが、一人、また一人と、運営する側(ボランティア・スタッフ)に育っていったのです。
結果として、NPOとして着実に「事業を回す」力を得たのですが、それだけでは次のステージに進むことはできません。そこで必要となるのが、Pさんの推進型リーダーシップです。知名度や交渉力、持ち前の行動力を最大限に発揮・活用して、スポンサーを獲得して資金面の基盤を確立したり、自治体から施設運営の指定管理を受けて事業機会を拡大したり。これは、Pさん抜きには実現できなかったことでしょう。
つまり、車はエンジンだけで走るわけではなく、家は柱だけでできているわけではない、ということです。時と場合により必要となる働きかけ(発揮されるべきリーダーシップ)は異なり、そして、多くの人はそのようなさまざまな働きかけを独りで担うことはできないし、その必要もないのです。
例として挙げたNPOの発展には、Pさんが発揮したようなリーダーシップと、Aさんが発揮したようなリーダーシップの、両者が必要でした。逆に言えば、PさんにはAさんが必要であり、AさんにはPさんが必要だった。そしておそらく、2人以外のメンバーも、みながそれぞれ異なるリーダーシップを発揮し、それが有機的につながることで、組織として成長してきたのでしょう。
自分一人でがんばるのではなく、相互依存の中でお互いが「他力」を上手に使いあう。
もしかしたら、そのような関係性を育むことこそ、「組織」とのかかわりをファシリテートするということなのかもしれませんね。(おわり)
徳田 太郎(とくだ・たろう) 株式会社ソノリテ パートナー・コンサルタント
1972年、茨城県生まれ。修士(公共政策学)。
2003年にファシリテーターとして独立、地域づくりや市民活動、医療や福祉などの領域を中心に活動を続ける。
NPO法人日本ファシリテーション協会では事務局長、会長、災害復興支援室長を経て現在はフェロー。その他、茨城NPOセンター・コモンズ理事、ウニベルシタスつくば代表幹事などを歴任。
現在、法政大学大学院・法政大学兼任講師、東邦大学・文京学院大学非常勤講師、Be-Nature Schoolファシリテーション講座講師などを務める。
主な著書に『ソーシャル・ファシリテーション:「ともに社会をつくる関係」を育む技法』(鈴木まり子との共著、北樹出版、2021年)。
*本ブログは、『ファシリテーションが会議・組織・社会を変える』(茨城NPOセンター・コモンズ、2013年)に加筆修正を行ったものです。