農業人材の育成と耕作放棄地の継承をめざす「すだち」事業~NPO法人里山みらい 永野裕介さん~
※イタリア・トリノ開催の世界最大の食の祭典「テッラマードレ」に出展した際、現地で撮影した一枚。
神山町は、「すだち」の生産量日本一をほこる町。毎年、9月になると神山中がすだちの収穫で大忙しです。道の駅でもたくさんの新鮮なすだちが破格な値段で手に入り、食卓には、毎晩山盛りのすだち。サラダやお刺身、お鍋やお肉にもなんでもかけると一味違った味わいが楽しめます。神山ですだちに出会ったら、もうすだちの虜になること間違いなし。神山町はもともと林業で栄えた町ですが、高齢化もあり、危険が伴う林業以外の収入を考えた方たちが、寒暖差が激しい気候を利用してすだち栽培を始めたといわれています。樹齢100年以上のすだちの古木は、今も大事に守られています。
そんな神山のすだちを全国へ、というスローガンのもと、すだちのPR事業を神山町と一緒に進めてきたのがNPO法人里山みらい、3代目の理事長、永野裕介さんです。
神山のすだち農業
すだちは、8月のお盆過ぎから収穫がはじまり、9月末までに取り終えるのが一般的。10月に入っても収穫できずに残してしまうと、黄色味がかって酸味が少ない「黄金スダチ」になります。料亭などの日本料理店で年間を通じて使われている緑色のすだちは、冷蔵やハウス栽培のもの。路地栽培は9月に収穫が集中し、1ヵ月で1年分の出荷量を確保します。収穫期以外も、畑の草刈りや剪定、施肥、鹿などから守るための柵をつくったりと1年中手入れが必要です。神山町は山間部の町で畑も坂や段々畑が多い土地なので、高齢化した農家さんには厳しく、人材不足は年々深刻になっています。近年では、収穫が追い付かず、耕作放棄一歩手前の状態の畑を目にすることもあり、実際、耕作放棄地も増えました。
里山みらいの取り組み
里山みらいでは、農家に若い働き手が来てくれるようにするためには収入を上げなければならないと、すだちのPRに取り組んでいます。レシピの開発やインスタグラムキャンペーンは好評で、多くの方が楽しんで参加してくださるようになり、神山すだちの認知度向上につながっています。
また、これまであまり収入につながっていなかった加工品やC品を買い取り、果汁100%の瓶詰商品を開発。東京や大阪などの飲食店に1年中提供できるようにしました。買い取り量の上限が決められていた加工用すだちを全量買い取ってもらえるようになり、農家さんがロスなく、翌年のすだち栽培に取り組める仕組みができつつあります。今では、果汁の在庫が足りなくなるほど、飲食店にお買い求めいただいているそうです。
9月の1ヵ月に収穫作業が集中することから、援農やすだち収穫体験の仕組みも町ぐるみで取り組んでいます。1年中農業は無理だけど、短期ならやってみたいという人や、季節ごとに援農をしている若い人が神山に繰り返し来てくれるように徐々になってきました。暑い時期の収穫作業は大変ですが、みんなで汗をかいたあとのBBQなどですだちソーダをいただく味は格別です。
耕作放棄地の再生と農業人材の育成
新たに、耕作放棄地を再生する取り組みも行っています。耕作放棄された農地を里山みらいで借り受け、有機認証を取得して有機栽培すだちの畑に再生しているのです。同じく里山みらいでは、農業研修生の受け入れも行っているので、2年間の研修が終わった方が神山で農業を始める際に、この有機栽培のすだち園地を引き渡し、継承してもらう流れを作っています。
課題である高齢化は残念ながら歯止めがかからず、耕作放棄地は増えるばかりですが、なんとか元気なすだちの木をまもっていくために、農業人材の育成と、援農者の仕組みづくり、JAや市場だけでなく直販のルートの開拓など、まだまだ取り組む事業はふくらみます。
「すだち」の未来
様々な取り組みの効果が実り、ますますたくさんの方に愛されるようになったすだち。
今年、永野さんは、イタリア・トリノ開催の世界最大の食の祭典「テッラマードレ」に日本代表として選ばれすだちをもってPRに行っています。日本の食文化を世界に発信する、そのときに有機栽培や農業人材の継承など、地域の課題解決にもつながる発信ができるといいなと思います。
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▼NPO法人里山みらい https://satoyama-mirai.jp/index.html
▼神山すだち 公式インスタグラム https://www.instagram.com/kamiyama_sudachi/