ファシリテーションが会議・組織・社会を変える!~第19回・会議における「階段のあがりかた」を極める!(その2)
▼「過去と他人」ではなく「未来と自分」に焦点を!
次に「衝突」です。健全な意見の対立であれば建設的な議論もできるでしょうが、感情論や「批判のための批判」が始まってしまうと、お互いに消耗するばかりです。
基本的には、「炭火のおこしかた」の項で確認したように、「発言者」と「発言内容」を切り離すことで、極力このような状態に陥らないよう事前に手を打っておくことが必要ですが、これにも限界があるでしょう。あまり紛糾するようであれば、思い切って休憩をとったり、次の議題を先に議論したりするようにした方がいいように思います。頭を冷やす時間を設けるのです。また、お茶菓子(チョコレートやアメなど、甘いものがいいでしょう)を用意しておき、このようなタイミングで「投入」するのも、思っている以上に効果があるものです。
最後に「座礁」です。トラブルや失敗があったとき、ともすれば責任逃れや犯人捜しばかりに目がいってしまい、建設的な議論ができずに立ち往生してしまうことがあります。このようなとき、どうすればいいでしょうか?
私たちは「炭火のおこしかた」の項で、「なぜ目標が達成できなかったのですか?」という問いを、「何が目標達成の妨げとなったのでしょうか?」、「どうすれば目標が達成できたでしょうか?」と置き換えることを学びました。この考え方を応用し、「なぜできなかったのか」から「どうすればできるのか」へ意識を変えていくことができれば、後ろ向きの議論を未来志向の議論に変えていくことができるかもしれません。
俳優の石田純一さんは、あるテレビ番組で、「世の中には二種類の人間がいる。できない理由を探す人間と、できる方法を探す人間だ」という主旨の発言をされていました。どうせ同じように頭を使うのであれば、できる方法を探したいですよね。資金が思うように集まらないときには、「なぜ集まらなかったのか?」ではなく、「どうすれば集められるのか?」と考える。会議がうまく進まないときには、「なぜうまく進まないのか?」ではなく、「どうすればうまく進められるのか?」と考える。問いの立て方を変えるだけで、発想の仕方は180度変わってくるのです。過去にこだわって、未来を失ってしまっては、元も子もありません。
座礁を回避するためのポイントとしては、もう一つ、「自分たちのコントロールできることがらだけに焦点を当てる」というものがあります。
「積み木の組みかた」の項で、SWOT分析というフレームワークを取り上げました。私たちを取り巻く環境を「内部環境」と「外部環境」に分け、それぞれについて「プラス面」と「マイナス面」を考察する――という分析法です。ここでいう「内部環境」とは、自分たちがコントロールできる要因であり、「外部環境」とは、自分たちの手の及ばない、コントロール不可能な要因です。
しかし、トラブルや失敗に見舞われると、私たちはしばしば、自分たちの外部にその要因を求めてしまいます。「行政の頭がカタいから……」、「まだ社会が成熟していないから……」。確かに、気休めにはなるかもしれません。しかし、それで問題は解決するでしょうか?
米国の神学者、ラインホルド・ニーバーの言葉に、「神よ、変えられないものを受け入れる平静を、変えるべきものを変える勇気を、そして、それらを見分ける英知を与えたまえ」というものがあります。「変えられないもの」を云々しても仕方がありません。それは前提条件として受け入れ、自分たちでコントロール可能なことがらに全力を注ぐことができるよう、積極的にメンバーに働きかけていこうではありませんか。(つづく)
徳田 太郎(とくだ・たろう) 株式会社ソノリテ パートナー・コンサルタント
1972年、茨城県生まれ。修士(公共政策学)。
2003年にファシリテーターとして独立、地域づくりや市民活動、医療や福祉などの領域を中心に活動を続ける。
NPO法人日本ファシリテーション協会では事務局長、会長、災害復興支援室長を経て現在はフェロー。その他、茨城NPOセンター・コモンズ理事、ウニベルシタスつくば代表幹事などを歴任。
現在、法政大学大学院・法政大学兼任講師、東邦大学・文京学院大学非常勤講師、Be-Nature Schoolファシリテーション講座講師などを務める。
主な著書に『ソーシャル・ファシリテーション:「ともに社会をつくる関係」を育む技法』(鈴木まり子との共著、北樹出版、2021年)。
*本ブログは、『ファシリテーションが会議・組織・社会を変える』(茨城NPOセンター・コモンズ、2013年)に加筆修正を行ったものです。