ファシリテーションが会議・組織・社会を変える!~第20回・会議における「階段のあがりかた」を極める!(その3)

▼視点を変え、協力しあう「われわれ」をつくりだす!
次に、「対立解消と合意形成」です。先に触れた「感情の衝突」はむろんのこと、健全な意見の対立であっても、適切なコントロールは難しいものです。しかし、「まあまあ、いろいろご意見もあろうかと思いますが、今日はこのあたりで……」などとお茶を濁すわけにもいきません。
「経営の神様」と呼ばれ、非営利組織のマネジメントに関する著書も多いP・F・ドラッカーは、「意見の不一致は、もっともらしい決定を正しい決定に変え、正しい決定を優れた決定に変える」とし、「意見の不一致が存在しない場合には、決定を行うべきではない」とまで述べています。対立を恐れるのではなく、「対立があるからこそ、一歩高い地点での合意形成が可能となるのだ」と考えるべきなのでしょう。
では、具体的な方法を考えてみましょう。ここでは、「視点を変える」ことと、「『案』ではなく『軸』に焦点を当てる」ことの2つを、対立解消・合意形成のキモとしたいと思います。
まずは「視点を変える」です。ものの見方を変え、その「新しいものの見方」を当事者全員が共有することで、対立を解消することができないか――という発想です。
意見の対立が加熱すると、ともすれば図のように、AさんとBさんの間に「問題」がある状態となってしまいます。しかし、視点を転換・共有することができれば、ともに協力して「問題」を解決しようという状態に導くことが可能となるのです。それぞれの「われ」が個別に自己主張するのではなく、相互に協力する「われ―われ」をつくっていく――と言い換えてもいいでしょう。

それでは、視点の変え方には、どのようなものがあるでしょうか? ここでは、「視点の変え方3点セット」をご紹介したいと思います。
まず1つめは「視座(Position)」です。「座」というくらいですから、座っている場所を変える、すなわち立場を変えるというものです。私たちが通常「視点を変える」というときの「視点」は、この「視座」を指しているといえるでしょう。
視座の変え方としてもっともシンプルなのは、「お互いの立場を入れ替える」というものです。「Aさん、もしあなたがBさんの立場だったら、どのように考えるでしょうか?」、「Bさん、もしあなたがAさんの立場だったら、どのように考えるでしょうか?」と促すことで、お互いの立場を尊重した議論となり、新たな案に思い至る……などというケースは、枚挙にいとまがありません。
あるいは、たとえば3Cのフレームワーク(「積み木の組みかた」の項を参照)を応用し、「サービスの受け手」の立場で考えるというのも、一つの手でしょう。行政組織でいう「住民の視点」、民間企業でいう「顧客の視点」ですね。
視点の変え方、2つめは「視野(Perspective)」です。「視野を広げる」、あるいは「視野を狭める」ことによって、新たなものの見方を獲得しようというのです。
視野には、大きく分けて2つの切り口があります。1つは「空間軸」で、たとえば「水戸市」で考えるのか、「県央地域」で考えるのか、「茨城県全域」で考えるのかによって、ものの見方は大きく変わります。もう1つは「時間軸」です。現時点の問題に集中するのか、3年後を視野に入れて考えるのかによって、発想は変わってくるはずです。
そして3つめは「視点(Point of view)」です。「点」ですので、どこに焦点を当てるのか、そのポイントを意図的にずらしてみようというわけです。
たとえば、皆が自分たちの「弱み」ばかりに意識がいっているようであれば、SWOT分析の考え方を応用し、「強み」に意識を向けるよう促すというのはどうでしょうか? また、収支バランスの改善について考えるのであれば、「収入を上げる」ことに焦点を当てるか、「支出を抑える」ことに焦点を当てるか――というのが根本的な視点の違いですし、収入を上げることに焦点を当てるとしても、会費・寄付金収入、事業収入、補助金・助成金収入など、さまざまな視点で考えることができるはずです。
自由自在に視点を変えることができるような、やわらかい頭で場に臨むことができれば、「対立こそ優れた意思決定の前提」というドラッカーの言葉の意味が、深く理解できるようになるのではないでしょうか。(つづく)  


徳田 太郎(とくだ・たろう) 株式会社ソノリテ パートナー・コンサルタント

1972年、茨城県生まれ。修士(公共政策学)。

2003年にファシリテーターとして独立、地域づくりや市民活動、医療や福祉などの領域を中心に活動を続ける。

NPO法人日本ファシリテーション協会では事務局長、会長、災害復興支援室長を経て現在はフェロー。その他、茨城NPOセンター・コモンズ理事、ウニベルシタスつくば代表幹事などを歴任。

現在、法政大学大学院・法政大学兼任講師、東邦大学・文京学院大学非常勤講師、Be-Nature Schoolファシリテーション講座講師などを務める。

主な著書に『ソーシャル・ファシリテーション:「ともに社会をつくる関係」を育む技法』(鈴木まり子との共著、北樹出版、2021年)。

*本ブログは、『ファシリテーションが会議・組織・社会を変える』(茨城NPOセンター・コモンズ、2013年)に加筆修正を行ったものです。