ファシリテーションが会議・組織・社会を変える!第31回・「リーダーシップ」への応用(その1)

複数の人が集まる場が、「響きあう関係が醸される民主的な時間」「新しい価値が紡がれる創造的な空間」になるよう働きかけることを通じ、人や組織の思考や行動、関係性にポジティブな変化をもたらす。このような「ファシリテーション」という考え方は、対話や討議などの「話しあい」という枠を超えて、組織内のメンバーとの日常的な接し方に応用していくことが可能となります。

そこでここでは、「リーダーシップ」という問題を取り上げてみたいと思います。

▼唯一絶対のリーダーシップ・スタイルはない!

リーダーシップ。たとえば「リーダーシップがある」「リーダーシップを発揮する」などのように、日頃から当たり前のように使っている言葉ですが、真正面から「リーダーシップとは何ですか?」と問われたら、みなさんはどのように答えますか?

いきなり定義することは困難かもしれませんので、角度を変えて考えてみましょう。

あなたは、どのような人に「リーダーシップ」を感じますか?

それはなぜでしょう? その人のどのような点にリーダーシップを感じたのでしょうか?

逆に、あなたが「リーダーシップがない」と感じるのは、どのような時ですか?

その時、どのような働きかけがあれば、リーダーシップを感じることができるのでしょうか?

……いかがでしょうか? 少しはリーダーシップについてイメージできたのではないでしょうか。

可能であれば、同じ問いを周囲の方々にも投げかけてみると面白いかもしれません(これこそが「対話」のスタートです!)。おそらく、人によってイメージはさまざまで、そこから「これがリーダーシップだ!」という「正解」を導き出すことは困難だと思います。

 政治学や経営学、社会学や心理学など、さまざまな領域で、しかも長年にわたってリーダーシップに関する研究がなされていますが、決定打となる定義は存在せず、「どのように定義するか」によって学派が分かれるほどなのですから、無理もありません。さまざまなリーダーシップ・スタイルがあり、どのような状況でも適応するような、唯一絶対のリーダーシップ・スタイルなど存在しません。まさに「組織の数だけリーダーシップ・スタイルがある」のです。

とはいえ、最低限の共通イメージがないと、話が前に進みません。ここでは、わが国におけるリーダーシップ研究の第一人者、金井壽宏さんの、「絵を描いてめざす方向を示し、その方向に潜在的なフォロワーが喜んでついてきて絵を実現し始めるときには、そこにリーダーシップという社会現象が生まれつつある」(『リーダーシップ入門』)という言葉をベースにして考えてみましょう。

▼チームをつくり、育てるのがリーダーシップ!

「(誰かが)絵を描いてめざす方向を示し、その方向に潜在的なフォロワーが喜んでついてきて絵を実現し始める」ということは、いわば「グループ」が「チーム」になる、ということではないでしょうか。

「グループ」も「チーム」も、ともに「複数の人が集まった状態」を指す言葉ですが、そこには大きな違いがあります。いわば、単純に複数の人が集まった状態が「グループ」であるのに対し、そのグループにおいて、共通の目的、達成すべき目標、目標達成のためのアプローチ(実現への方法や手順)などが共有された状態が「チーム」です。つまり、「グループ」は自動的に「チーム」になるのではなく、目的や目標、達成への道のりなどを共有するための働きかけ(=絵を描いてめざす方向を示すこと)があって、はじめて「チーム」となるのです。逆にいえば、「グループをチームに変えていく働きかけこそが、リーダーシップである」ということになるのではないでしょうか。

しかし、これだけではリーダーシップの全体像を捉えたことにはなりません。もう一度、金井壽宏さんの言葉に戻ってみましょう。

「絵を描いてめざす方向を示し、その方向に潜在的なフォロワーが喜んでついてきて絵を実現し始めるときには、そこにリーダーシップという社会現象が生まれつつある」

最後の「生まれつつある」という点に要注意です。これは、「グループをチームに変える働きかけ」は、いわばリーダーシップの第一歩であり、それだけでは不十分であるということを意味しているのではないでしょうか。チームを形成するだけではなく、そのチームを維持し、さらに発展させていくような働きかけが必要であり、それこそが、いわば「二歩目のリーダーシップ」なのです。

つまり、「絵を描いてめざす方向を示す」ための働きかけと、「その絵をともに実現していく」ための働きかけの両者が揃って初めて、真の意味でのリーダーシップとなるのでしょう。(つづく)

徳田 太郎(とくだ・たろう) 株式会社ソノリテ パートナー・コンサルタント

1972年、茨城県生まれ。修士(公共政策学)。

2003年にファシリテーターとして独立、地域づくりや市民活動、医療や福祉などの領域を中心に活動を続ける。

NPO法人日本ファシリテーション協会では事務局長、会長、災害復興支援室長を経て現在はフェロー。その他、茨城NPOセンター・コモンズ理事、ウニベルシタスつくば代表幹事などを歴任。

現在、法政大学大学院・法政大学兼任講師、東邦大学・文京学院大学非常勤講師、Be-Nature Schoolファシリテーション講座講師などを務める。

主な著書に『ソーシャル・ファシリテーション:「ともに社会をつくる関係」を育む技法』(鈴木まり子との共著、北樹出版、2021年)。

*本ブログは、『ファシリテーションが会議・組織・社会を変える』(茨城NPOセンター・コモンズ、2013年)に加筆修正を行ったものです。