ファシリテーションが会議・組織・社会を変える!~第5回・「会議の事前準備」を極める!(その3)

▼個々の議案は「目的」「課題」「手段」で整理を!

事前準備の3つめのポイントは、「個々の議案の組み立て」です。

個々の議案のタイトルを「議題」といいますが、皆さんは、次のような議題を目にしたことはありませんか?

「次年度の事業計画について」

ありますよね? では、もう1つ質問です。「次年度の事業計画について」という議題から、どのようなことを審議すると想像しましたか?

ある人は「理事長(あるいは事務局)から、次年度の事業計画づくりについて、方針が示されるのでは」と考えたかもしれません。またある人は、「事業計画を立てるための話しあいをするのでしょう? まずはアイデア出しからスタートかな」と思ったかもしれません。あるいは、「もう事業計画は完成していて、あとは具体的な予算や、役割分担を決める話しあいをするのだと思った」という人もいるでしょう。

実は、ここにこそ「落とし穴」があるのです。そう、「~について」という議題だけでは、話しあいに向けての参加者間のイメージが揃わないのです。

巷にあふれる「~について」あるいは「~の件」という安直な議題設定。これこそが、参加者一人ひとりの「心の準備」を阻み、会議の場ではイメージのすりあわせで多大な時間を奪う「元凶」なのです!

……と、思わず力が入ってしまいましたが、それだけ重要だということでご勘弁を。肝心なのは「では、どうすればいいのか」ですよね。

これも、別に難しいことではありません。個々の議案を、「目的(Why)」、「課題(What)」、「手段(How)」の3要素で整理すればよいのです。

具体例をあげて考えてみましょう。たとえば今、自分たちのウェブサイトに、「よくある質問集(FAQ)」を掲載するための話しあいをしているとします。前回の話しあいで、どのような「質問」を掲載すればよいかを考え、現在、担当者が手分けしてそれぞれの質問に対する「回答」を考えている。今回の話しあいでは、それぞれが持ち寄った原案を全員で検討し、「質問」と「回答」の両方を確定する――。そんな状況をイメージしてみましょう。このときに、安直に「ウェブサイトへのFAQの掲載について」などという議題だけをぽーんと投げ出すのではなくて、その議案の3要素を考えてみるのです。

まず「目的(Why)」です。そもそも、何のために今回の話しあいをするのか? その理由を、「~するために」という文章で表します。

例・「3月末日までに『よくある質問集』を公開するために」

次に「課題(What)」です。いわば、これこそが真の意味での「議題」であるといえるでしょう。今回の話しあいにおいて、私たちに与えられている課題は何なのか? 会議が終わったときに、私たちはどのような状態になっていればよいのか? このような問いかけに対する答えを、「~する」と端的に示します。

例・「前回挙げた質問文、およびそれに対する回答文を確定する」

最後に「手段(How)」です。どうやって、そのような状態をつくり出すのか? 実際に必要となる作業を、「~することで」という形で表します。

例・「各自の原案を順番に検討し、磨きをかけることで」

このように、「課題」を「目的」と「手段」でサンドウィッチにすることで、議題を明確化するのです。ちなみにこの3要素は、目的・手段・課題の順番に並べ替えると、日本語として意味の通る文章になります。

例・「3月末日までに『よくある質問集』を公開するために、各自の原案を順番に検討し、磨きをかけることで、前回挙げた質問文、およびそれに対する回答文を確定する」

どうでしょう? これなら、参加者間のイメージがブレることはありませんよね。

表題としては、「ウェブサイトへのFAQの掲載について」だけでもよいでしょう。しかしそのタイトルだけを置くのではなく、「3月末日までに『よくある質問集』を公開するために、各自の原案を順番に検討し、磨きをかけることで、前回挙げた質問文、およびそれに対する回答文を確定する」という文章を補うようにするのです。これだけで、格段に当日の運営がラクになりますよ!(つづく)



徳田 太郎(とくだ・たろう) 株式会社ソノリテ パートナー・コンサルタント

1972年、茨城県生まれ。修士(公共政策学)。

2003年にファシリテーターとして独立、地域づくりや市民活動、医療や福祉などの領域を中心に活動を続ける。

NPO法人日本ファシリテーション協会では事務局長、会長、災害復興支援室長を経て現在はフェロー。その他、茨城NPOセンター・コモンズ理事、ウニベルシタスつくば代表幹事などを歴任。

現在、法政大学大学院・法政大学兼任講師、東邦大学・文京学院大学非常勤講師、Be-Nature Schoolファシリテーション講座講師などを務める。

主な著書に『ソーシャル・ファシリテーション:「ともに社会をつくる関係」を育む技法』(鈴木まり子との共著、北樹出版、2021年)。

*本ブログは、『ファシリテーションが会議・組織・社会を変える』(茨城NPOセンター・コモンズ、2013年)に加筆修正を行ったものです。