ファシリテーションが会議・組織・社会を変える!~第15回・会議における「炭火のおこしかた」を極める!(その4)

▼「ヒト」ではなく「コト」に焦点を当てる!  

もう1つのポイントは、「ヒトからコトへ」です。「傾聴」の項でも、「ヒト(発言者)」と「コト(発言内容)」とを切り離すことの重要性を確認しましたが、同じことが「発問」についてもいえるのです。  

たとえば、「なぜ目標が達成できなかったのですか?」という問い。どうでしょう、もしこのような問いを投げかけられたとして、「ああ、気分がいいなあ!」という人はどれくらいいるでしょうか。多くの人は、問いつめられている、責められていると感じて、気分を害してしまうでしょう。

これは、双方にとって不幸です。問われた側は気分を害するのですから不幸なのは当然ですが、問いを発した側も不幸です。その人は、単に「原因が知りたい」だけであり、別に問いつめるつもりなどなかったのです。原因を知ることができれば、手を打つことができる。一緒に解決策を考えたい。そう思って「なぜ?」と訊ねただけなのです。しかし、相手は気分を害して口をつぐんでしまいました。目的を達することはできなくなってしまったのです。  

では、どうすればよいのでしょうか?   たとえば、「なぜ目標が達成できなかったのですか?」と問われるのと、次のように問われるのとでは、答えやすさに差がありませんか?  

「何が目標達成の妨げとなったのでしょうか?」  

「どうすれば目標を達成できたでしょうか?」  

そう。「なぜ?」とWhyで問いかけると、「ヒト」に焦点が当たってしまうのです。そのため、「なぜ『あなたは』できなかったのですか?」と問いつめられているような気になり、不快感を覚えるのです。それに対して、「何が?」とWhatで問いかけたり、「どうすれば?」とHowで問いかけたりすると、「コト」に焦点が当たるため、答えやすくなるのです。

ビジネスの世界では、「『なぜ』を5回繰り返せ」などという言葉があります。問題を徹底的に掘り下げていって、根本的な原因を発見し、それに対して手を打たなければ、真の解決とはいえない――ということでしょう。確かにその通りです。しかし、直接的に「なぜ」という語を使わなくても、結果として「なぜ」を問うことは可能なのです。そうであるならば、お互いに気分を害さない方法で問題解決を実現したいですよね。  

ヒトに優しく、コトに厳しく。ぜひ、試してみてください。(つづく)    

 

徳田 太郎(とくだ・たろう) 株式会社ソノリテ パートナー・コンサルタント

1972年、茨城県生まれ。修士(公共政策学)。

2003年にファシリテーターとして独立、地域づくりや市民活動、医療や福祉などの領域を中心に活動を続ける。

NPO法人日本ファシリテーション協会では事務局長、会長、災害復興支援室長を経て現在はフェロー。その他、茨城NPOセンター・コモンズ理事、ウニベルシタスつくば代表幹事などを歴任。

現在、法政大学大学院・法政大学兼任講師、東邦大学・文京学院大学非常勤講師、Be-Nature Schoolファシリテーション講座講師などを務める。

主な著書に『ソーシャル・ファシリテーション:「ともに社会をつくる関係」を育む技法』(鈴木まり子との共著、北樹出版、2021年)。

*本ブログは、『ファシリテーションが会議・組織・社会を変える』(茨城NPOセンター・コモンズ、2013年)に加筆修正を行ったものです。