ファシリテーションが会議・組織・社会を変える!第27回・「かかわり」のファシリテーション(その1)

「組織を変える」といっても、あらゆる組織は人の集団から成り立っている以上、基本は「人と人とのかかわり」にいかに働きかけるかがポイントとなります。そして、組織の中で「人と人とがかかわる」局面の多くは、「話しあい」であるといえるでしょう。すなわち、人と人とが集い、話しあう場を支援・促進することこそが、組織を変えるテコとなるのです。

 しかし、一口に「話しあい」といっても、これまで見てきたような、いわゆる「会議」だけとは限りません。そこでまずは、「話しあいにはどのような種類があるのか?」、そして「さまざまな話しあいにおいて、どのようなファシリテーションが可能なのか?」を考えておきたいと思います。

▼組織の中に「対話」や「討議」の文化を!

 話しあいにはさまざまな形がありますが、ここでは「対話」と「討議」の2つに絞って見ていくことにします。

 「対話(dialogue)」とは、「共有可能なゆるやかなテーマのもとで、聞き手と話し手で担われる、創造的なコミュニケーション行為」(中原淳+長岡健『ダイアローグ 対話する組織』)です。「聞き手と話し手」といっても、1対1で行われるとは限りません。また、「創造的なコミュニケーション行為」とありますので、当たり障りのないことをとりとめもなく話す「雑談」とは異なります。あるテーマについて、参加者がお互いの思いや考えを表現しあい、また受け止めあうことで、互いに理解・共感することができ、結果として新しい気づきが得られたり、考えが深まったり、関係性に変化が生じたりすれば、それはよい対話であるといえるでしょう。いわば「意味」を探る話しあいであり、必ずしも結論を必要とするものではありません。

 そして「討議(deliberation)」ですが、これは私たちが日頃よく耳にする「議論(discussion)」という言葉との対比でイメージを捉えていただければと思います。「議論」というと、どうしても優劣を決するような話しあいのイメージが強いのですが、これはもともと「ディスカッション」に「打ち負かす」という意味があるため、やむを得ないことでしょう。ここでは、そのようなニュアンスを取り除き、「ともに妥当性を追い求めるような話しあい」という性格にフォーカスするために、あえて「デリバレーション」という耳慣れない言葉を用いています。

 討議の参加者には、自分の意見や利害をかたくなに押し通すような姿勢ではなく、他の人々の意見に真剣に耳を傾け、自らの意見や判断を絶えず反省し見直すような姿勢が求められます。そして討議の結果、視野が広がることによって一人ひとりの意見や判断が変わったり、新たな選択肢が発見・創造されたりすることは、大いに歓迎されます。すなわち、すぐれた合意形成へとつながることが期待されているといえるでしょう。「対話」に比べ、ルールや資料(公正な情報)を重視するのも、1つの特徴かもしれません。

 意味を探求する「対話」や、妥当性を追求する「討議」の最大の特徴は、参加している一人ひとりの思いや考えの変容を重視しているという点にあります。いわゆる「議論」の場合、話しあいが始まる前と終わった後で自分の思いや考えが変わっていたら「負け」ですが、対話や討議では、思いや考えに変化がなければ意味がないのです。

 そして私は、組織が強くなっていくためには、通常の理事会や事務局会議などの「定期的な会議」「課題に対処するための会議」だけでなく、対話や討議、すなわち「自発的な話しあい」「課題を創出するための話しあい」が必要不可欠であると考えています。

 特にNPOは、ビジョンやミッションでつながる組織です。日々の活動に追われて、「私たちは、何のためにこの活動をしているのだろうか?」「私たちは、将来的に社会がどうなることをめざしているのだろうか?」「私たちにとって、大切にすべきものは何なのだろうか?」といった根元的なテーマで話しあう機会を失うことは、NPOであることの意義を失うことを意味するといっても過言ではないでしょう。(つづく)

徳田 太郎(とくだ・たろう) 株式会社ソノリテ パートナー・コンサルタント

1972年、茨城県生まれ。修士(公共政策学)。

2003年にファシリテーターとして独立、地域づくりや市民活動、医療や福祉などの領域を中心に活動を続ける。

NPO法人日本ファシリテーション協会では事務局長、会長、災害復興支援室長を経て現在はフェロー。その他、茨城NPOセンター・コモンズ理事、ウニベルシタスつくば代表幹事などを歴任。

現在、法政大学大学院・法政大学兼任講師、東邦大学・文京学院大学非常勤講師、Be-Nature Schoolファシリテーション講座講師などを務める。

主な著書に『ソーシャル・ファシリテーション:「ともに社会をつくる関係」を育む技法』(鈴木まり子との共著、北樹出版、2021年)。

*本ブログは、『ファシリテーションが会議・組織・社会を変える』(茨城NPOセンター・コモンズ、2013年)に加筆修正を行ったものです。