ファシリテーションが会議・組織・社会を変える!第29回・「かかわり」のファシリテーション(その3)

▼真に「応える=聴く」ための3つのポイント!

 「応える」ことの第一歩は、「聴く」ことです。「聞く」のではなく、「聴く」こと。どう違うのか? それは、文字の中にヒントがあります。「聞く」はもんがまえに耳。「耳で聞く」ことであり、聞こえてくる声を受動的に聞いているような状態です。英語でいえばhearに当たります。これに対して、「聴く」は耳のみならず心があります。耳を傾けるだけでなく、心を傾けて「聴く」。関心を持ち、理解しながら、能動的に聴いている状態です。英語でいえばlistenに当たるでしょう。

 では、どうすれば「聴く」ことができるのでしょうか? おそらく、3つのポイントがあるのではないかと思います。

 1つめは、「相手が伝えようとする内容を、正確に受け止める」ことです。当たり前のことですが、これが意外と難しいのですね。

 なぜ難しいのか? 人は誰でも、思考の枠組みを持っています。そしてその枠の大きさや形は、人それぞれ異なります。だから「ものの考え方、理解の仕方が異なる」のです。ここまでは当然のことなのですが、やっかいなのは「誰がどのような枠組みを持っているか」は、目で見ることができないということです。顔が違う、体格が違うというのは一目瞭然ですが、目で見えない「思考の枠組み」は、ともすれば自分と同じであると思ってしまうのですね。だから、途中で分かった気になって話の途中で「ああ、それなら」と言葉を遮ったり、「いや」「だから」「でも」と頭ごなしに否定したりしてしまうのです。

 相手の枠組みで捉えようと努力すること。それが、受け止めるという姿勢になるのではないでしょうか。

 2つめは、「相手の気持ちに関心を向け、そのまま受け止める」。内容だけではなく、感情を受け止めるということです。

 ドラマなどではよくありますよね? ヒロインの「思い」と「言葉」との間にギャップがあり、ところが主人公はその微妙なズレに気がつかず、そこからすれ違いの日々が始まる――。定番の展開です。このとき視聴者は、「思い」と「言葉」との間にギャップがあることに気がついています(そうでなければ面白くありません!)。では、なぜ気がつくかというと、ヒロインが「言葉以外の部分」で思いを物語っているからに他なりません。いわゆる「身体が発しているサイン」(非言語/準言語メッセージ)というやつです。

 ドラマでは演技としてサインが発せられていますが、私たちの日常生活においても、本人が意識する、しないにかかわらず、「目は口ほどにものを言っている」のです。そこをしっかりと受け止めること。これこそ「共感」ではないでしょうか。

 そして3つめは、「相手の発言や行動に対し、きちんと反応する」ということです。内容を受け止め、気持ちを受け止めたら、「受け止めている」ということをきちんと伝えるべきでしょう。適度にうなずいたり、あいづちを打ったり、語尾やポイントを繰り返したり。そうすれば、安心感と信頼感に支えられた、一段深いコミュニケーションが可能となるはずです。

▼声にならない声をすくい上げるのも「責任」だ!

 ところで、これらのポイントで語られていることは、すでに相手から言葉が発せられていて、それを「聴く」ようなイメージが強いかと思います。しかし、1対1ではなく、複数の人とともにあるファシリテーションでは、少し違った形の「呼びかけへの応答」が必要なのではないかと思うのです。

 話しあいの現場で実に多いのが、参加メンバー間で「発言量に偏りがある」という状況です。もちろん、無理に全員が口を開く必要はありません。「他の人の発言を聴いているだけで満足」という場合だってあるでしょう。しかし、「本当は発言したいのに、何らかの障壁(発言しづらい雰囲気とか、誰かが場を独占してしまって口を挟めないとか)があって声を上げられずにいる」ような人がいたり、「想いはあるけれど、それを言葉にすることができなくて、もどかしい思いのまま口を開けずにいる」ような人がいたりすることは、決して好ましい状態ではありません。

 このようなときに、その場に漂っている「私も……」という声なき声、これは、いわばその場にいる全員に向けられた「呼びかけ」ではないでしょうか?

 そうであるならば、その呼びかけに気づき、応えることは、ファシリテーターの第一の責務であるはずです。呼びかけに気づくこと(=観察)、そしてそれに応えること(=介入)。これこそ、ファシリテーションのアルファであり、オメガであると思うのです。(つづく)

徳田 太郎(とくだ・たろう) 株式会社ソノリテ パートナー・コンサルタント

1972年、茨城県生まれ。修士(公共政策学)。

2003年にファシリテーターとして独立、地域づくりや市民活動、医療や福祉などの領域を中心に活動を続ける。

NPO法人日本ファシリテーション協会では事務局長、会長、災害復興支援室長を経て現在はフェロー。その他、茨城NPOセンター・コモンズ理事、ウニベルシタスつくば代表幹事などを歴任。

現在、法政大学大学院・法政大学兼任講師、東邦大学・文京学院大学非常勤講師、Be-Nature Schoolファシリテーション講座講師などを務める。

主な著書に『ソーシャル・ファシリテーション:「ともに社会をつくる関係」を育む技法』(鈴木まり子との共著、北樹出版、2021年)。

*本ブログは、『ファシリテーションが会議・組織・社会を変える』(茨城NPOセンター・コモンズ、2013年)に加筆修正を行ったものです。