ファシリテーションが会議・組織・社会を変える!第33回・「リーダーシップ」への応用(その3)

▼リーダーシップは分かちもつことができる!

しかし、システム重視の分業型組織の中にも、ある変化が訪れています。たとえば、「指揮者のいないオーケストラ」の存在です。ここでは、もっとも有名な例として、「オルフェウス室内管弦楽団」をご紹介しましょう。

オルフェウス室内管弦楽団には、指揮者という唯一絶対のリーダーは存在しません。メンバーが交替でリーダー役を務め、またリハーサルにおいては、演奏家一人ひとりがプロフェッショナルとして自らの意見を自由に述べ、討議を重ねることで、楽曲を完成させていきます。つまり、リーダーシップを分かちあい、メンバーが対等な立場で合意形成を積み重ねることで、素晴らしい演奏へと結実させているのです。

しかし、このやり方は、非常な困難を伴います。まず、合意形成に時間がかかります。指揮者が演奏法を指示する場合の、3倍もの時間がかかることも少なくないといわれています。さらに個々のメンバーには、演奏者としての技術の向上だけでなく、合意形成のための「話しあいの技術」の向上も求められるのです。それでも、「たし算」より「かけ算」の方が、よりよい音楽を創り上げるのにふさわしい方法であると信じているからこそ、オルフェウス室内管弦楽団は40年以上にわたって、この「プロセス重視」の組織を維持しているのです。

オルフェウス室内管弦楽団の運営方法は、「オルフェウス・プロセス」として、書籍やDVDで紹介されていますので、興味のある方はご参照いただければと思います。ちなみに、われらが地元の誇る「水戸室内管弦楽団」も、しばしば指揮者なしのプログラムで素晴らしい演奏を披露してくれていますよ。

▼リーダーシップには2つのタイプがある!

さて、このように捉えると、リーダーシップは「誰かに発揮してもらう」ものではなく、「すべての人が(意識する、しないに関わらず)常に発揮している」ものであるといえるでしょう。そうであるならば、せっかくですから、互いに「よい影響力」を与えあいたいですよね。

しかし、リーダーシップというと、やはり何か「特別な力」をイメージし、「いや、私なんか、とてもとても……」と後込みしてしまう方も多いかもしれません。

大丈夫です。もしもリーダーシップが何か「特別な力」だとしたら、そもそも私のような者が何ごとかを語ることなどできるはずがありません。ここで扱うのは、マハトマ・ガンジーやマーチン・ルーサー・キング、ネルソン・マンデラのような偉人のリーダーシップではなく、等身大のリーダーシップなのです。

さて、先にご紹介した金井壽宏さんは、『リーダーシップ入門』のなかで、ロナルド・A・ハイフェッツの学説をベースに、リーダーシップには2つのタイプがあるとしています。

1つは、率先垂範、指示・命令型のリーダーシップです。前から(上から)メンバーを引っ張るような、「俺についてこい」的な強いリーダーシップということもできるでしょう。迅速な決定、的確な指示。率先垂範、叱咤激励。まさに「リーダーシップ」という言葉がピッタリです。これを金井さんは、影響を与えられる側(フォロワー)を受動的(Passive)な存在と捉えていることから、モードPと呼んでいます(私は「剛腕系リーダーシップ」と呼んでいます)。

これに対しもう1つのタイプは、支援・促進型のリーダーシップです。「あれはやったか、これは終わったか」と尋ねるのではなく、「自分に手伝えることはないか、自分にやって欲しいことはないか」と尋ねるような、後ろから(下から)メンバーを支える、どちらかというと「一緒に育てていきましょう」的な、軟弱な(?)タイプです。フォロワーを積極的・能動的(Active)な存在と捉えていることから、金井さんがモードAと呼ぶこのタイプは、これまではあまり「リーダーシップ」として捉えられてこなかったかもしれません(私は「脱力系リーダーシップ」と呼んでいます)。(つづく)

徳田 太郎(とくだ・たろう) 株式会社ソノリテ パートナー・コンサルタント

1972年、茨城県生まれ。修士(公共政策学)。

2003年にファシリテーターとして独立、地域づくりや市民活動、医療や福祉などの領域を中心に活動を続ける。

NPO法人日本ファシリテーション協会では事務局長、会長、災害復興支援室長を経て現在はフェロー。その他、茨城NPOセンター・コモンズ理事、ウニベルシタスつくば代表幹事などを歴任。

現在、法政大学大学院・法政大学兼任講師、東邦大学・文京学院大学非常勤講師、Be-Nature Schoolファシリテーション講座講師などを務める。

主な著書に『ソーシャル・ファシリテーション:「ともに社会をつくる関係」を育む技法』(鈴木まり子との共著、北樹出版、2021年)。

*本ブログは、『ファシリテーションが会議・組織・社会を変える』(茨城NPOセンター・コモンズ、2013年)に加筆修正を行ったものです。