ファシリテーションが会議・組織・社会を変える!第34回・「リーダーシップ」への応用(その4)

▼肩の力を抜き、かかわりを育むリーダーシップ!

さて、すでにお気づきかと思いますが、後者のリーダーシップの説明に、「支援・促進」と言う言葉が出てきました。そう、ファシリテーションの語源と同じです。つまりモードAのリーダーシップは、「ファシリテーション的なリーダーシップ」といってよいでしょう。

そして、このモードAのリーダーシップについて、金井さんは次のように述べています。

「陣頭指揮で引っ張るタイプが目立つので、モードPの定義によるリーダーシップ論が長らく支配的であった。だが、最近、新たに注目されているリーダーシップ論は、一見すると間接的で遠回りのようだが、ビジョンの実現に立ち向かうフォロワーのパワーの持続性やコミットメントの深さという点で、モードAが注目されつつある」(『リーダーシップ入門』)

従来の発想からすれば、モードAは「リーダーシップらしくないリーダーシップ」でしょう。しかし、自らが先頭に立ち、目標達成に向けて直接的に叱咤激励するだけがリーダーシップではないのです。むしろ、肩の力を抜き、メンバー同士の、あるいはメンバーと組織との「かかわり」を重視して、間接的に場を整えるような働きかけを行うことも立派なリーダーシップであり、むしろそのような働きかけの方が有効であることも多いというのです。

特に、「ビジョンの実現に立ち向かうフォロワーのパワーの持続性やコミットメントの深さ」は、「ファシリテーションとは?」の項で確認した「納得感」が源泉となっていることは明らかです。

ファシリテーションの考え方、振る舞い方をベースとしたモードAのリーダーシップ、自分自身が一人で何とかしようと肩に力をこめるのではなく(脱力系!)、メンバーがその本来の力を発揮できるよう場をつくり、それをつないでいくことで、組織としての力を徐々に高めていくようなリーダーシップ。このような働きかけによる影響力であれば、その気さえあれば、資質や知識、技能や経験などの多寡にかかわらず、誰でも発揮することができるのではないでしょうか。

▼多くのボランティアを巻き込んでいく!

そして、特にNPOにおいては、モードAのリーダーシップが有効に機能する局面が多いかもしれません。それは、多くのNPOが「ボランティアという存在を巻き込むことによって、初めて事業推進が可能となる」という特質を有しているからです。

ボランティア(volunteer)の語源である「volo(ウォロ)」というラテン語は、「自ら喜んで~する」という意味の言葉です。つまり、自発性こそがボランティアの本質なのです。

余談ですが、ボランティアを定義づける概念は、「自発性」「社会性(共益性・公共性)」「無償性」の3つであるとされています(日本ボランティアコーディネーター協会編『市民社会の創造とボランティアコーディネーション』)。一般にボランティアというと、その無償性ばかりが着目されがちですが、語源から考えても、自発性こそがキー概念であることを忘れないようにしたいものです。

さて、自発性を端的に表現するフレーズとしてしばしば引きあいに出されるのが、阪神・淡路大震災の際に地元NGO救援連絡会議の代表を務めた故・草地賢一さんの、次の言葉です。

「自発的とは、言われなくてもすることだが、同時に、言われても(納得できなかったら)しないことでもある」

まさにボランティアとは、積極的・能動的(Active)な存在であり、指示・命令によって動くものではないのです。その意味では、フォロワーを受動的(Passive)な存在と捉えるモードPのリーダーシップだけでは、必ず行き詰まってしまうといっても過言ではないでしょう。

活動への多様なかかわり方を認め、多くの人を巻き込んでいく。一人ひとりの「社会的自己実現」を支援・促進しながら、組織として「事を為し遂げていく」。これこそが、NPOにおける理想のリーダーシップではないでしょうか。

ただし、ここで誤解をしてはならないのが、一見軟弱に見えるモードAのリーダーシップですが、そこには一本の太い芯があるということです。

支援・促進するといっても、何でもかんでもサポートすればよいというものではありません。あくまでも「めざすべき方向に向かっていく、その歩みを」支援・促進するのが、モードAのリーダーシップなのです。つまり、ミッションやビジョンなしには、リーダーシップはありえないのです(ここで、組織内で対話や討議の機会を積極的に設けることの重要性を、ぜひ思い出したいところです!)。

少し長文になりますが、NPOでリーダーシップを発揮する立場にあるすべての人が心に刻むべき、P・F・ドラッカーの言葉を引用しましょう。

「最近、リーダー論が盛んである。遅すぎたくらいだ。しかし、本当のところは、使命が先にくるべきである。非営利機関は、使命のために存在する。社会と個人を変えるために存在する。非営利機関が使命のために存在しているということは、決して忘れられてはならない。リーダーの第一の責務は、組織内の皆が、その使命を目にし、耳にし、そして、それとともに生きていくようにすることである」(『非営利組織の経営』)(つづく)

徳田 太郎(とくだ・たろう) 株式会社ソノリテ パートナー・コンサルタント

1972年、茨城県生まれ。修士(公共政策学)。

2003年にファシリテーターとして独立、地域づくりや市民活動、医療や福祉などの領域を中心に活動を続ける。

NPO法人日本ファシリテーション協会では事務局長、会長、災害復興支援室長を経て現在はフェロー。その他、茨城NPOセンター・コモンズ理事、ウニベルシタスつくば代表幹事などを歴任。

現在、法政大学大学院・法政大学兼任講師、東邦大学・文京学院大学非常勤講師、Be-Nature Schoolファシリテーション講座講師などを務める。

主な著書に『ソーシャル・ファシリテーション:「ともに社会をつくる関係」を育む技法』(鈴木まり子との共著、北樹出版、2021年)。

*本ブログは、『ファシリテーションが会議・組織・社会を変える』(茨城NPOセンター・コモンズ、2013年)に加筆修正を行ったものです。