ファシリテーションが会議・組織・社会を変える!第30回・「かかわり」のファシリテーション(その4)

▼気づいた/感じたことは、積極的に口にする!

 ここで1つ、私自身の失敗談を。

 ある連続ワークショップの、最終回での出来事です。これまでに話しあってきたことを「企画」という具体的な形にするのがゴールだったのですが、いくつかアクシデントが重なり、討議の時間が短く切りつめられてしまいました。また、欠席の方が多く出てしまったこともあり、これまでの小グループを統合して新しいグループで討議せざるを得なくなっていました。

 異なる文脈で討議してきたメンバーが、限られた時間でアイデアを統合し、1つの結論を導かなければならない――。そもそも設定自体に無理があることもあって、初めから雲行きは怪しかったのですが、とりあえず討議をスタートしました。ところが、甲さんはAというポイントに引っかかって脱線し、乙さんと丙さんはBというポイントで衝突し、丁さんはCというポイントにこだわりすぎるあまり座礁し……と、一人、また一人と、討議の土俵から降りていってしまうのです。ただ一人、声の大きい人がどんどん話を進めていくものの、納得している人は誰もいません。みんなの姿はそこにあるのに、まるで誰もいないかのような真空状態。そして、最後の最後に不満が爆発し……。

 私は、一人ひとりの「想い」には、かなり早い段階から気がついていました。つまり、「観察」はできていたのです。ところが、それに対して、何の働きかけもできなかった。適切な「介入」ができない、つまりは「応える」ことができなかったのです。

 「介入」というと、何か強力な働きかけをするようなイメージがありますが、決してそうではありません。たとえば、ファシリテーター自身が気づいていること、感じていることを、そのまま口にするだけでもよいのです。

 先のワークショップで、「いやぁ、突然グループが統合されて、なんとなく話しづらいですよね~」などと口にしていたら、どうなったでしょう? おそらく、何人かは「そうだね」とうなずいてくれることでしょう。それを受ける形で「どうすれば話しあいやすいですかね?」とアイデアを募れば、もしかしたら障害を取り除くことができたかもしれません(取り除くことができなくても、少なくとも皆が同じ障害の中にあることを理解・共有し、それを前提として受け入れて討議することができれば、それだけでも違うでしょう)。

 あるいは、脱線、衝突、座礁といったアクシデントへの対応も同じです。もちろん、事前に防ぐことができればベストですが、仮に予防することができなかったとしても、「あれ? どこかでつまずいちゃいましたかね?」「うーん、私には全員が納得されているようには見えないのですが……」「このまま進んでしまって大丈夫ですかね? なんか不安だなぁ」などと、早め早めに口にしておけば、最後に大爆発するようなことはないはずです。

 動作・姿勢、表情、目線・視線といった視覚的なサイン(非言語メッセージ)、声の調子・大きさ、話す速さ・口調といった聴覚的なサイン(準言語メッセージ)はもちろん、お互いの話し方や聞き方、話しかける「宛先」の違いや発言量の偏り、一人ひとりの役割行動や影響関係など、場の空気を「読む」ことはもちろんですが、それに対して適切な働きかけを行う(あるいは意図的に行わない)ことで、場の空気を「つくる(変える、壊す、保つ、委ねる……)」こと。これこそが、人と人とのかかわりにおけるファシリテーションなのでしょう。(つづく)